おもしろい、作者のボクシング愛が噴火しています。超一級エンタメ小説。


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ボックスとは、「戦え」「ボクシングしろ」という意味である。
ダウンなどで試合中に中断した後、審判が言うセリフである。

高校ボクシングが舞台。
目線は2つ。
親友の鏑木という天才に憧れる木樽という優等生と
暴力が嫌いな女教師。彼女は無理からボクシング部の顧問にさせられた。
視点が素人なので、ボクシングの素人が読んでもわかりやすい
ときどき、監督やプロのトレーナーからの解説が入り
物語に没入しやすい

作者はボクシングをかなり偏愛しているようで
描写がリアル。だから、戦いのシーンは興奮する。楽しい。とにかく楽しい。

木樽という特進学級の素人が少しずつ強くなる過程と
天才なのに、サボりぐせのある鏑木
この二人がどのようにボクシングと立ち向かうのか
そこに大人たちが絡んでくる
顧問の先生と、ジムのトレーナーの爺さん

そして、絶対的な強者稲村という男の存在
木樽も鏑木も、打倒稲村が目標である。

地道に頑張る木樽に対し、天才鏑木は飽きっぽい
稲村に負けると、簡単にボクシングを投げ出してしまう

この様を語った言葉が胸に響いた

才能がある子は努力の喜びを知らない子が多いのよ。できないことが出来るようになることの喜びを知らない。ある意味、それは不幸なことやと思うのよ。

簡単に手に入れたものは、すぐに手放してしまう。これはよくあることで、お金でも、働いて稼いだ金は丁寧に使うが、宝くじで当たった10万は速攻で使ってしまう。そんなものだと思います。

二人は強くなっていく。そこには新しい景色がある。
それは過酷な世界なのだ。弱い時には感じもしなかったプレッシャーや挫折。

強くなればなるほど過酷で厳しい世界が持っている。
それはどんな世界でも同じである。

楽しみでやっていたボクシングと、優勝を狙うボクシングは
まったく違うものだ。

プロのトレーナーの爺さんが言ってた言葉は強烈

本当に強い軍鶏は頭が割れて脳みそが飛び散っても戦う

世の中には、そんなボクサーがいるのです・・・


これは木樽の成長の物語でもあり
鏑木の限界への挑戦の物語でもある。

突っ切った人間だけが見れる高見
それはどんなものなのだろう。

99%の人間が敗者で
勝者は優勝者のみであるという過酷な世界

そんな世界で戦うことの意味
なぜ、人は死にものぐるいで戦うのか
この物語を読んでいると何か底にある熱い情熱みたいなものが伝わってくる

人間を突き動かす原動力
それは何なのかと考えてしまう


2021 9 20
112冊目の読書
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ボックス!(上) (講談社文庫)
百田 尚樹
講談社
2013-04-12

ボックス!(下) (講談社文庫)
百田 尚樹
講談社
2013-04-12