武藤吐夢@ BLOG

令和になって読んだ本の書評を書いています。 毎月、おすすめ本もピックアップしています。

カテゴリ: 西條 奈加

一つ一つの短編が魅力的、読後感は山本周五郎だった。



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ある貧しい長屋で起こった話し。
すこぶる情緒的で繊細な作品群。
読後感は、山本周五郎を読んだみたいな感覚だった。
もちろん、これは誉め言葉です。

さすが、直木賞だと思いました。
読んで後悔のない作品です。

灰の男の話し は素晴らしい、盗賊に息子を殺された侍が盗賊を見つけたが、その男は廃人となっていた。
彼もまた、息子を殺されていたのだ。
そう、あの捕り物の時、捕縛側と盗賊側で犠牲者が出て、父親二人が残され、抜け殻のようになり生きていたのだった。
侍は引退した後、長屋の差配となり男を監視し生活の手助けもした。
最後は侍が差配として男を看取るという意味深な話し。
その直前に、真実を知る。
男と自分が同じであったという真実。

この対比となる作品が、冬虫夏草だ。
これは子供を溺愛する母親の話し。
商家の跡取りだった息子はバカで
娶った嫁もダメ女
母は煙たがれる。
バカ息子が酔って侍に喧嘩を売り殴り蹴られて半身不随
バカ嫁も母が離縁状を書き追い出す
店はつぶれ
貧乏長屋で介護生活

子供のためと口にする親ほど、ぞんがい子供のことなど考えてないのかもしれない
と言った差配のセリフが印象深い。

母が昔より生き生きしてたというのが怖い。

閨仏 という作品も名作です。

ぶさいくばかり愛人にする年寄りの家にいた長女的存在の愛人が
だんだん疎んじられ、そこで仏を掘ることに夢中に
庇護者であった旦那が死んだ後、女たちを引き取って彼女が生活の面倒を見るという話し
好きな男が出来たのに仲間を捨てない
この女の矜持みたいなものが心地良い。

明けぬ里 という話しは元売女の女が昔世話になった超美人の明里と再会する
その境遇の差に歴然とする
自分の亭主は博打好きで、自分に身体を売らせても平気
でないと生きていけない

明里は昔から恵まれていて、今も裕福そう
そんな彼女が旦那の店の手代と心中したという話しがオチ
お金はあっても、真実の愛は得られてなかった明里の気持ちがわかる。








2024 1 12
+++++
読破NO 9


心淋し川 (集英社文芸単行本)
西條奈加
集英社
2020-10-02

過去世という過去を見せる能力で、何度も何度も、民という少女を助ける小鬼の切ない物語。


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西條奈加さんは、ファンタジー系の時代ものの書き手で
令和になって、これで2冊目の読書です

亥子ころころ 西條 奈加 を6月に読んでいます

亥子ころころ
西條奈加
講談社
2019-06-25



今回も切ない話しだった
昔話のような短編集なのだが、2重底になっている



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鬼の芽が発芽しかけた人がいて、それを3匹の小鬼が
過去世の能力を使い。これは、その人に過去を見せるという力だ
その人の心に訴えて、鬼の芽を発芽させないようにするという物語だ

1つ1つが日本昔話のように、おもしろく楽しめるのだが
隻腕の鬼の話しが好きだ
飢饉で困っている村がある。老人や子供を山に捨てるという話しになり、村人の一人が怒り狂い鬼になりかける
この村には、隻腕の鬼の伝説があり、その鬼が村を救ったとして祀られていた
小鬼たちは、彼に過去世の能力を使い、その鬼のいる時代を見せる
その陰惨な光景を見て、鬼になりたいという願望は失せる
彼は、村人を集めて自分の腕を斬らせる
現代版、隻腕の鬼となり代官に直談判する
それは強訴だとか一揆などの方法ではなく
言い分を聞き入れてくれないなら、村人たちが彼と同じように隻腕になる
つまり、片腕となると脅すのだった。そうなれば村はやっていけなくなり代官も責任問題となる
時代ものに現代的なストライキを想起させるような解決策を採用し
切れ味の良い短編になっていた

こんな風に、小鬼は過去世の能力を使い色んな人を助けるのだが
最初の話し。つまり、何故、こんなことをしているのかという問題が出てくる
小鬼と民という話しだ
森で二人は出会う。民という少女は弟を探していた。小鬼は手伝おうとする
過去世の能力を使い、弟を見る。過去を見る
民の村は貧しい村だった。久しぶり食べた兎の肉。それが本当は弟のだったとわかり
民は怒り狂い鬼の芽を発芽させる
それは千年続き、輪廻転生を繰り返す、その度に、小鬼は発芽せぬように助けるのだった
つまり、すべては民という少女の生まれ変わりなのだ

千年の罪という章では、ついに、民が記憶を取り戻すが小鬼が力尽きてしまう
ラストシーン、民は鬼の墓場で砂になった小鬼の残骸を集めていて
それが完全に揃うまでは千年はかかるだろうという
すごく悲しい二人の物語なのでした


何故、民が千年もの間、鬼のループの中にあったのか?
鬼たちの会話にこんなのがある

罪って・・・、弟を食ろうたことか?。何で、そんなことが罪になるんだ?。獣や鳥なら・・・

罪とは人の知恵が作り出したものなのです。他人が、己が、罪と思えば、それは罪となってその者の心を苛む

つまり、少女民は、自らの罪悪感でこのような千年牢に入ってしまったということです
弟を食った
そのショックから立ち直るのに千年の年月が必要だった
著者が言いたいことは、自分を責め続ける
自分の心を苛む
それはとてもやっかいなことで人間特有の病であると言いたいのでしょう
この人間の業こそが、人間を生き辛くしているのかもしれません



2019  11/19
令和 103冊目
☆☆☆☆


千年鬼 (徳間文庫)
西條 奈加
徳間書店
2015-08-07

「まるまるの毬(いが)」の続編。和菓子屋のアンを思い出させるような和菓子の数々・・・。



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江戸時代の和菓子屋南星屋が舞台となっております
この店は、店主の治兵衛と娘のお永、孫娘のお君の3人で切り盛りしていた
地方の和菓子をピックアップしアレンジして出す創作和菓子店です
開店すると客が行列しすぐに売り切れになる人気店
安価で珍しい菓子を提供してくれる庶民の味方です

「まるまるの毬(いが)」の続編になり、こっちを先に読まれるのをおすすめします。

毎日、2つの商品を店主たちが考え、昔、10年以上にわたって修行した手帳に書き記した菓子を再現します
今風にもっとおいしくアレンジするのが見どころ
短編小説風に毎回いろんな和菓子が出てきて楽しめます
魅力は、その和菓子なのですが・・・

この店に、雲平という男が迷い込んできて職人として働きだし
さらに、南星屋の菓子は創意工夫がほどこされて磨かれていきます
この皆の意見のやり取りが面白い
どんどん菓子が良くなっていきます

この運平には、兄弟のように修行した弟分がいて
その人が働いていた茶人で旗本の侍が死んで、その責任は彼にあり出奔したと聞かされます
その真実を探るという謎解きが別の線としてあります。
つまり、この小説は和菓子小説であり、ミステリーでもあります

この作品で美味しそうな和菓子に触れていると、思わず食べたくなります
和菓子の蘊蓄もおもしろく興味深いです
「関の戸(三重の銘菓)」は話しも菓子も良く出来ています
渡り職人雲平とお永の恋の行方、浮気して出て行った元亭主の想い
この切ない三角関係も見どころの1つなのです
元亭主の気持ちも親父さんの気持ちも娘の気持ちもわかります
お永が好きになったのが、渡り職人雲平というのが・・・
地方を回り修行の旅に出る宿命なのです
それは父親もそうでした
腕を上げるために必要なことなのです

読み終えた後、何がすごく良い気分になりスカッとします
これが時代物の魅力なのかもしれません。


☆☆☆☆ の 楽しい作品でした。

2019  6/28


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