武藤吐夢@ BLOG

令和になって読んだ本の書評を書いています。 毎月、おすすめ本もピックアップしています。

カテゴリ: 遠野遥

少し期待外れだった。生きている実感がない若者の雰囲気はわかるが、面白くはない。


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遠野さんは、僕の好きな作家さんの一人で過去出したすべての著作を読んでいる。

彼の魅力は核弾頭みたいな激しさ、暴力描写、性描写が売りで、そこから繰り出してくる若者のジレンマみたいなものが描かれていて好きだったが、この話しは中学生の女子が主人公で、半分はゲームの世界だし、設定も父親と別居し父と同年代の社長と同棲しているって、現実ぽくない。
生きているという実感のないまま、まるでゲームに出てくるゾンビみたく生きている、それが浮遊感覚なのかなとも思うのだが、わかりずらい。

正直、あんまし面白くなかった。

この少女の世界は、彼女のやっているゲームと大して変わりはない。
生きている実感が希薄なんだ。

「肉の欠片をティッシュに包み、ゴミ箱に捨てた。ゴミ箱に捨てたということはつまり、さっきまでは私のからだの一部だったものが、この短時間のうちにゴミに変わったということだ。どうしてそんなことが起こるのだろう。どこか腑に落ちなかった。」

「人間のからだのうち、本体から離れてしまったものはゴミになるのだろうか。役割を果たせなくなってしまったからゴミになったということだろうか。」


必死に、自分を現実の感覚に引き戻そうとしている。
僕には、そんな風に感じた。

どうも彼女は、現実とゲームの間の認識が曖昧のように感じる



ゲーム、バーチャルリアリティ仮想現実と現実世界のボーダーラインが曖昧な人たちが先進国の若者たちの間にいると聞く

この中学生の少女もそれに近い。


もしかすると、この現実という設定で描写されている文も空想か何かなのかもと思ってしまうほどリアリティがない。

だって、中学生なのに親と別居し、父と同年代の男と同居しているのだ
それも中一だよ。
ありえませんよ、僕の常識では。


この同居男性の彼女に対する態度も変だ。

何でもしてくれる優しい人だが、彼女を隠すように暮らしている
そこから見えてくる関係性は、家出少女とパパ活男

男には、彼女はゲームの中のゾンビみたいにどうでもいい存在

本当は、彼女のことなんか興味がない
この現実感のなさの根源はそこにある。

彼女はそこに存在しているが、そこにはいないのだ。
まるで透明人間みたいじゃないか。





2023 10 29
++++
読破 no 163


浮遊
遠野遥
河出書房新社
2023-01-18

恋愛の中心思想が何かが、その行動の核となるというのか?。


hakyoku


芥川賞受賞作。
これには驚いた。でも、わかる気がする。

遠野さんは、文藝賞を受賞している。
本作品は、2作目の小説だ。
実は、サイン本も持っている。今、私が一番に注目している作家さんだ。
新人賞受賞から半年以内に、これだけのクオリティの作品が書けるのは相当な潜在能力がないとできるものではない。

今回も性の臭いがプンプンする純文学だ。
まるで収穫したての青梅のようで、齧り付きたいが、齧り付くと即死
という青酸カリに似た毒性を含んでいる

性欲の強い元ラガーマンの大学生の彼は、ストイックな真面目な男で自意識過剰気味
性欲が強く、いつも自慰行為ばかりしている。
恋人は、政治活動に夢中でやらしてくれない。
そんな時に、やぼったい。やらせてくれそうな女と出会い、そういう関係になる。
真面目だから、二股はできんから、恋人と別れて付き合うが
彼女は少し神経質で、かなり変。
彼の性欲に応えているうちに淫乱になっていき、彼は体力的に無理になっていく・・・。

元カノの陰謀で、いきなり別れるようになる
これがタイトルの「破局」に繋がるのだが、彼は見知らぬ男にタックルをして死なせた?
見知らぬ女を追いかける・・・、という狂った行動に出るという終わり方

先ほど、作品を青梅に例えたが、青春の青々しい気分の裏側には、未熟さゆえに愚挙が隠れていて
それは嫉妬や我儘や自意識過剰からくるのであり
彼女に捨てられたから、彼は変になったのではなく、その前から、元カノと別れた直後から
もう、すでに何かの変調があって、そこに新しい女が IN   してきたことで 変てこな化学反応が生じて有毒ガスが体内に蓄積し、最後は仕掛けで爆発したという展開なのである。

疾走感のある文章と、主人公の「私」のリアルな内面描写により、その変質というのか狂気ぶりが滑稽で、本人は真剣なのだろうが、読者のように一歩引いてみるとヤバい。まともじゃない。禍々しさみたいなものが伝わってくる。
すべてのノイズが、自分の悪口に聞こえたり、弱い人間をイジメて良しという感覚
そいう若者特有のエゴイズム。いや人間の中にあるエゴイズムなのかもしれない。
彼の恋愛の核には、たぶん性欲があり、その思想が彼の運命を行動を決定していたとも思える。
彼女が別れを切り出した時、元カノを泊めたのを非難した。でも、彼女は何を非難したかと言うと彼が自分以外の人間とセックスをしたことを非難したのだ。自分も本当は誰とでもやりたい。禁欲している。我慢している。彼氏に遠慮してた。なのに、あなたは好き放題。やってられないというのである。
何なんだろう、この理屈。
意味不明の言語で語られているようで理解不能。
まさに迷宮のラビリンス状態である。
彼女の恋愛の核も性欲なのだ。
彼女とのセックスに辟易していたのに、それが永遠にできないとわかると、執着に変わり追いかけ。でも、男に阻止され暴力をふるい、それを目撃した女を追いかける。何で、見知らぬ女を追いかけるのか意味がわからない。
この女を追いかける行為の延長戦上に性欲が存在しているのではないかと思ってしまう。

この作品は中毒性のある作品だった。
もっと、この人の作品を読んでみたいと思う。
今年、読んだ中でも、たぶん、ベスト10に入ると思う。


2020 5/10
令和2年74冊目
*****

破局
遠野遥
河出書房新社
2020-07-04


新人とは思えぬ暴力シーンの描写が光る。主人公の存在に、現代が内包しているのかように感じた。


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大雑把に、内容を説明すると
小学生の頃、水泳を一緒に習っていた友達と二人で公園で大人たちのHを見ていて
友達に、お前は女だよと言われて、フェラチオを強制させられた主人公
大学生になった彼は、女装が趣味で性欲を満たす為にデリヘルで女を買っている
同級生の女の子にも性欲を生じる性的にはノーマルな女装家
デリヘル嬢に、女装を見せて からかわれ家を出る
男にナンパされ、男と見破られ公衆トイレに連れ込まれてレイプされかけたところを性器を噛み切ろうとして助かる

何か、ダイジェストにあらすじにまとめると、過去のトラウマを引きずったジェンダー倒錯みたいなカテゴリーに色分けされそうな作品なんですが・・・
違うなと思った。
そんな単純なもんじゃないような気がする。
もっと深い。

LGBTなどの性的マイノリティなら、男性同士のそういうこともOKだし何の違和感もないのだが
彼の場合、性の対象はあくまで女性なのだ

だが、冒頭にこういうシーンがあるので、悩まされる
水泳の場面・・・

・・・人前で下着同然の恰好をしなければならないのが嫌だった
   どうして、男だけ胸を出さないといけないのだろう?

こういう感覚は、小学生の男子にはないと思う

その違和感を感じたバヤシコという友達は、・・・男みたいに見えるけど、お前は女だ・・・
と言う風に断定し、彼に欲情し性器を愛撫させ、フェラチオを強制するのだ

それに対しての彼の反応が不思議だ。

こんなことはやめさせなければと思った。しかし、なぜやめさせなければいけないのか、理由がよくわからなかった。私は確かに快感を得ていた。どうして、気持ちいいことをやめなくてはいけないのだろう。
だが、フェラチオをさらに強制されると拒否の心を見せる
どうやら、自分の意思でするのはOKだが、強制されるのはNOみたいだ

ここで、私は彼はゲイなのだと断定した。
大学生になり女装が趣味とわかってからは、ゲイと決めつけて読んでいたが
性処理は、デリヘルの女でしているし、同級生の女子の部屋に泊った時はやる気満々でノーマルとしか思えない

読んでいて、すごく違和感というのか、気味が悪くなってきた
ゲイなら、すっきりしたのに、そうではなさそうなのだ
つまり、心が男なのか、女なのか、よくわからない
たぶん、男なんだが、なのに、女装をする
男との性行為もOKなのかもしれない
デリヘル嬢に女装の姿を見せたいという発想を彼が口にした時、わけがわからなくなった

そのデリヘル嬢とのシーン

・・・鏡の前に連れて行った。ランプの薄明かりの中で見る一層きれいで、私は私から目が離せなくなった

彼は、かなりのナルシストだ。
だが、デリヘル嬢から、その姿を馬鹿にされ、激高し逃走する
その途中で、男にナンパされ、自意識を回復させるが、彼が男だとわかると、そのナンパ野郎は彼を汚い公衆トイレに連れ込む

彼は同性とそういう行為に及びたいと望んでなかった
しかし、男は無理やりレイプしようとする
フェラチオを強制させられた彼は、子供の頃とは違い積極的だ

この状況を、このような男に好き勝手に扱われている状況を、私は心のどこかで受け入れ始めていた。どうせなら気持ちよくなってもらったほうが互いに・・・

しかし、冷静さを回復した彼は、反撃に出る

私は、男の性器に前歯を当て、思いっきり強く噛んだ・・・吐き気をこらえながら、さらに顎に力を入れようとした。こんなものは、断ち切ってしまわなくてはならない。
この人の心の性別は、読み終わった後もよくわからない
どうしても、私たちは、物事を白黒はっきりさせないと気持ち悪く、こういう どっちつかずの人間の存在には嫌悪感を覚えてしまう

女としかしたくないという彼が、どうして男からの性欲の強制を受け入れようとするのか?
 それは潜在意識の問題なので、よくわからない
でも、1つだけわかることがある。
それは、自分の意思でするのはOKだが、強制されるのはNOという意思
選択権はあくまでも自分にあるということ
それが言いたかったのかなと、私はこの作品を読み思った

なら、これは、とても素晴らしい作品ということになる
どうしても、生々しい新人とは思えない暴力シーンの描写のすばらしさに心を奪われがちになるが
きちんと、主人公は自分の意思を表明しているのだ

誰かに、何かを強制されるのは嫌だ!!

このメーセージに、私はすごく共感し、この作品は受賞に値するものだと思いました
次も読みたくなる描写力でしたよ


2019  10/14
令和 90冊目
☆☆☆☆☆ 


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