2019年は、J.D.サリンジャー生誕100周年ということで、初期の短編集を再読して見ました

前に、柴田元幸さんの訳の「ナイン・ストーリーズ」を読んだのでしたが難解で苦労しました
今回読んだのは野崎版
サリンジャーファンにはおなじみの新潮文庫です


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サリンジャー作品の中には、子供を主人公にしている作品が多くみられます
彼の代表作である『ライ麦畑でつかまえて』や、本作では、「笑い男」「小舟のほとりで」「バナナフィッシュにうってつけの日」などなど、若い人を書いた作品群です
本作は、読みにくく内容把握に苦労しました
ですが、読むに値する秀作たちであるのは間違いありません

9つの作品のうち、2作品の簡単な内容紹介と好きなポイントをあげることで少しでも本書の魅力が伝わればと思います

「小舟のほとりで」・・・
この作品、冒頭でお手伝いさんがある4歳の坊ちゃんのことを話しています。
神出鬼没。どこにいるかわからないので気が抜けない、などなど・・・。少しやんちゃな子供みたい。
お坊ちゃん、小舟のところで拗ねています。母親が近づいていき、ちょっとした小芝居じみた遊びになっていきます
母親と少年の会話が優しくて、春の陽だまりみたいにあったかい
最終ページの少年の台詞で作品の印象がどんでん返しします

サンドラがね・・・、スネルさんにね・・・パパのことを・・・でかくて、だらしない、ユダ公だって・・・そういったの
彼はユダ公を、そらにあげるタコの一種と思っている
でも、悪口だとは理解している
だから、使用人に付きまとっていた
拗ねていた理由は父親を侮辱されたからでした
全てを知っていたから、母親は、あんなにも優しかった
まるで精密機械のように計算されつくした展開
全ての伏線を最後のページで回収するやり方は切れ味の良いミステリー小説のよう
人種差別がモチーフなのだが、子供を使うことで、より一層モチーフが際立った
間違いなく秀作です


「笑い男」・・・
9つの作品の中で一番好きな作品です
コマンチ団という少年たちと団長の大学生の物語
団長が彼らに話す物語が「笑い男」のストーリーなんです
これは彼のオリジナルです
この少年たちと団長の間に、大人の女性が入ってきて不協和音を生み出す
どうやら、団長と女性は付き合っていて、でも、団長と女は別れるのかな
彼女が泣いている姿を目撃します
その団長の気持ちが笑い男のストーリーに影響し、
凄く残酷な方法で笑い男を・・・
バスの中で、話しを聞いていた子供が泣き出す
それは話し手の団長の失意。悲しみが笑い男というオリジナルの物語を通して
まるでドミノ倒しみたいに、伝わっていく結果なのかと思いました
身近な大人の男の恋愛を通して、子供たちが複雑な感情を無意識に獲得していく様を
繊細なタッチと「笑い男」という秀逸な作中物語により盛り上げる
読後感の良い物語でした

文章が古い世代の作家なので少し読みにくいのですが
おもしろい作品群なので、せび・・・

2019  11/12

令和 100冊目
☆☆☆☆☆ 


ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)
サリンジャー
新潮社
1974-12-24