ジャーナリストとしての視線で、自分のレイプ事件を語った問題作である


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年末に民事裁判で勝訴が確定しているレイプ事件の著者が2017年に出版した告発本です
やっと購入しました
ジャーナリストとして冷静な視点でレイプ事件の問題点を語っていて
色々と勉強になる本だと思いました


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山口という某報道関係大手の大物に、プロデューサーの仕事を貰えるということで彼女は会いに行きます
そこで酒をたくさん飲まされ(薬物投与疑惑もある)泥酔
そのことは、タクシー運転手の証言とホテルの防犯カメラでもわかっている
二人は山口氏の部屋に行く。彼女には記憶がなく気がつくと性行為の最中だった
避妊はされておらず、ノートパソコンが不自然に起動していて行為を録画していたようである
怖くなり、そのまま着替えて、その場から退出した

この時、彼女が取るべき行動は部屋を出た廊下でスマホから110通報するか、ホテルのフロントで従業員に警察を呼んでくれるように頼むべきだったのだと思います
そうすれば、ノートパソコンの動画も彼女と山口氏の性行為のあった証拠も立証できたし、病院でレイプ検査もできた。間違いなく罪に問えたと思うのですが、彼女はしばらく思考停止となってしまった
泥酔状態になった、記憶がないことも変で薬が使われたのではと疑念を抱いているが、それも病院ですぐに調べなかったので立証できない
しばらくたって警察に被害届を出すも証拠は不十分だったのです

ここからわかる教訓は、レイプ被害にあったら、すぐに警察に知らせて病院で検査をしてもらうことです

山口氏の反論と本書を比較すると


           伊藤さん  山口氏
性行為の同意      なし    あり
薬物使用        あり    なし(店側証人あり。購入履歴見つからず)
盗撮          あり    なし(ノートパソコンに撮影機能なし。映像出てこず)
部屋の中での意識    なし    あり

と議論は平行線をたどっている

しかし、タクシー運転手と防犯カメラやホテル従業員の証言により泥酔状態は確定されている
つまり、かなり酔っていたということだ。
この場合の「合意」の是非など無関係なのである
泥酔している女の子に「君は火星人?」と聞くと「はーい、そうです」と答えるのです
つまり、その合意は意味をなさないからレイプであると、私は思う

だが、警察は不起訴にした
証拠が少ないのもあるが・・・

中村 格 氏 の 言葉 を 思い出し た。 「女 も 就職 の 世話 を し て ほしい という 思惑 が あっ た から 飲み に 行っ た ので あっ て 所詮 男女 の 揉め事。 彼女 は 二軒 目 にも 同行 し て いる ん だ し さ」   これ が 元 警視庁 刑事 部長 の 発言 なのか、 と 耳 を 疑う。


確かに、彼女は山口氏に対して就職の世話をしてもらう為に会っていた
だが、その代償として性行為をするとは一言も言っていないし、そのつもりはなかったと断言している
そんな子供のような理屈は通らないとおじさんたちは言うが、プロデューサーになったら頑張る。仕事で頑張って山口さんに恩を返すという代償もあるのだ

「私 は 山口 氏 に対して、 怒り や 憎悪 の 感情 は まったく あり ませ ん」 

という発言や、レイプ被害よりも今後の仕事の方を気にしていることに疑問を持つ人もいるようだ
山口氏は、プロデューサーと彼女に言っていたのに、性行為をしたとたん、急にトーンが変わりインターンという言葉が出てきたことで、彼女は怒るのだが、その場面をピンポイントでとらえて、枕営業だとか、思うような仕事を貰えなかったから腹いせとか、ハニートラップとかネットで著名人がバッシングしているのだが、それは違うと思う

 それはレイプ被害者をもう一度レイプしていることと同じだ
 セカンドレイプだ


枕営業なんかでなく、仕事を気にしていたのは、記憶がなかったからだ。伊藤さんは、ホテルに行くまでの記憶も部屋での記憶もほとんどない。性行為の終盤に意識が覚醒したのだ
つまりレイプされたのだが、されたというリアルな感覚がない状態なので、酔う前の仕事の話しがそのまま残っていたというだけであり、そういうリアル感のない状態ではレイプされた実感がないから、そうなるのは当然だと、私は思う

その後、犯人の山口氏に自分から頻繁に電話したりメールしたことに対しても、レイプ被害者がそんなことを平気でできるはずがないとネットで言っている人がいたが、それも違う
確かに、レイプ被害者のほとんどは被害者とのやり取りどころか、男性との接触すら怖がる
不自然に思うのは当然だ。しかし、彼女はジャーナリストなのだ。だから、記者としての冷静な視線で 俯瞰的に自分の事件を観察し、彼女の仕事をしただけである。ジャーナリストの仕事は、悪を駆逐することである。その為には自分の感情も何もかも犠牲にできる。それが真のジャーナリストである

こんな フレーズ が 心 に 響い た。 「謎 を 追う。 事実 を 求める。 現場 に 通う。 人 が いる。 懸命 に 話 を 聞く。 被害者 の 場合 も ある だろ う。 遺族 の 場合 も ある。 そんな 人達 の 魂 は 傷つい て いる。 その 感覚 は 鋭敏 だ。 報道被害 を 受け た 人 なら なおさら だ。 行う べき こと は、 なんとか その 魂 に 寄り添っ て、 小さな 声 を 聞き、 伝える こと なのでは ない か。   権力 や 肩書き 付き の 怒声 など、 放っ て おい ても 響き 渡る。 だが、 小さな 声 は 違う。 国家 や 世間 へは 届か ない。 その 架け橋 に なる こと こそ が 報道 の 使命 なの かも しれ ない、 と」

これが伊藤さんの理想とするジャーナリズムなのである

話しを元に戻す。レイプ被害を実証するのは難しいと伊藤さんは経験から語る
警察から根掘り葉掘り質問されることは苦痛だ。それは二度おかされるのと同じだった
被害届を出すのが遅いと、レイプされた証拠も集まらない。レイプされていると訴えても聞いてくれない。親身になってくれない。

レイプ事件を裁く、法律自体が古い。
と伊藤さんは指摘している。
これが一番の問題的だ。この本のキモになる部分である

  私 の 事件 の 場合、 私 が 引きずら れる よう に し て ホテル に 入っ た のは、 ビデオ を 見 て もらえれ ば わかる と 思う が、 その後、 部屋 の 中 で ある 程度 の 時間 が 経っ て いる。   その間、 合意 し た のか、 し ない のか?   密室 の 中 で 起こっ た こと は 第三者 には わから ない、 と 繰り返し 指摘 さ れ た。 検事 は これ を「 ブラックボックス」 と 呼ん で い た。

つまり、合意があったかなかったかというのが重要なのだ
密室での出来事だから、誰もわからない
しかし、そんなことをどうやって証明するのだ


 日本 における 強姦罪 の 裁判 で 問わ れる のは、 被害者 が 心 の 中 で 拒否 し て い た か どう かでは なく、「 拒否 の 意思 が 被疑者 に 明確 に 伝わっ た か どう か」 なの だ。

これは確かに古い考え方だ。伊藤さんのように意識がない場合は罪に問えないのではないのか?。
せめてノートパソコンが、すぐに、レイプ検査をしていたらと思う

他にも、いくつもの指摘をしている
警察で事情聴取する刑事が男だと女性はしゃべりにくいとか
過去の男性遍歴や性癖を聞くのは必要なのか?
レイプ被害者に対して病院はもっと配慮すべきだ

こういう旧態依然とした状況なのでレイプされても泣き寝入りする人がたくさんいるわけである
そういう状況を変えるべきだと伊藤さんは指摘する
レイプ被害者の大半は、顔見知りにやられている
だから、ショックも大きい
レイプ被害者が、被害にあったことを安心して話せるシステムが必要なのだ
これは、今すぐに必要なのである。大切なことなのです

伊藤さんの場合は、記憶がほとんどないのでレイプされたというリアルさがないのかもしれないが
僕が学生時代の時に、女友達の友達にレイプ被害者がいてという話しを聞いたことがある
その人は、3年も一人では家から出られず、父親と弟以外の男性とは話すこともできないと聞いた。コンビニなどに一人で行くのも怖い。男性と道ですれ違うだけで足が動かなくなるのだ
レイプ被害とは、それほど深刻な問題なのである

本書には残念ながら、伊藤さんのそういう心情は伝わってこなかった
何度も言うがレイプされたという実感がないためである。仕方のないことだ
だから、他者のケースについて語っている

  性 暴力 は、 被害者 の その後 の 人生 に 大きく 関 る。 長い あいだ、 その 被害者 と 家族 を 苦しめる。 癒え ない 傷、 長く 続く 裁判、 仕事 に 復帰 でき ず ホームレス に なる 者、 その 苦しみ から 抜け出せ ず 命 を 絶つ 者。 その 苦しみ が、 彼女 の 写真 に 克明 に 写し出さ れ て い た の だ。   中 で 最も 印象 に 残っ た のは、 上司 に レイプ さ れ、 その後 命 を 絶っ て しまっ た 一人 の 女性 だっ た。 彼女 の 日記 に 描か れ た、 リスト カット さ れ た 手首 の 絵 が 写る 写真 の 前 で、 私 は 動け なく なっ て しまっ た。   その 絵 の 脇 には、 彼女 の こんな 言葉 が 書き残さ れ て い た。 "IF ONLY IT WAS THIS EASY."   これ が こんなにも 楽 だっ たら。 「これ」 とは、 血 の 流れ た 手首 の 絵 の こと だろ う。 死ぬ こと、 この 痛み に 終止符 を 打つ こと を 指し て いる。 そして、 実際 に 彼女 は 命 を 絶っ た。

レイプは被害者の心を殺す
その人の人生を無味無臭にする
未来を消す
笑顔がなくなる
何もできなくなる
自分が悪いのかもしれないと自分を責め続ける
無能力な家から出られない自分が嫌になる
死にたくなる
死にたくなる
死にたくなる

これは重罪なのである
彫刻刀で心臓を抉られるような、血が壁に飛び散り、何が何やらわからなくなるような
そんな錯乱した状態にされるのがレイプだ
だから、許せない・・・
絶対に許せない
レイプ犯は、それを理解すべきだ!!

本書を読んで色んな捉え方をする人がいると思う
それは伊藤さんがレイプ被害者としての熱量よりも、あえてジャーナリズムとしての熱量を大切にしたからだと思う
だから、不自然に思えることもある
覚えてないのだから、リアルな感覚がないのは仕方ないのだ
彼女が責められる問題は1ミリもない

彼女はレイプ被害者なのである
不起訴を受けて記者会見をした彼女がネットで非難されたのは有名な話しだ
被害者なのにだ
何かおかしくないか?
最後に、そのことを・・・

個人的なメリットがないと、こんなことをするはずがない
売名行為だと非難する者
政治的な意図をかんぐるもの、ハニートラップ説 在日だから 左翼だからと非難する
不特定多数の顔のない人たち・・・、影響力のある先生たち・・・
伊藤さんの言葉を聞いてくれ


私は左翼ではないし、日本人の両親から生まれたので国籍は日本だ。繰り返すが、たとえ私が左翼であったとして、民進党の議員であっても、韓国籍であっても、性暴力を受けて良い対象にはならない。そして、そのことで非難の対象になるべきではない。私が誰であろうとも、起こった事実にはかわりないのだ。


レイプ被害者を、バッシングする
これこそまさしくセカンドレイプである
恥を知るべきである
人のやることではない!!



2020 1/9
令和2年 10冊目
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Black Box (文春e-book)
伊藤 詩織
文藝春秋
2017-10-18