武藤吐夢@ BLOG

令和になって読んだ本の書評を書いています。 毎月、おすすめ本もピックアップしています。

カテゴリ: 恒川光太郎

沖縄臭を放つダークファンタジー短編集の傑作。おもしろかった。



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恒川さんの短編はハズレなしですね。
ジャンルは、ホラーなのかファンタジーなのか微妙ですが
少しホラー基調が強いのかと・・・

舞台が「沖縄」です。
文章の節々から「沖縄」が見え隠れしています。
沖縄に伝わる実際の伝説をモチーフにしているのでしょうか?。

ネタバレあり

「私はフーイ~」という短編が好きです。
島に流れ着いた異国の漂流者フーイ~

フーイーは変身することができた。

フーイーはそれから五十年後に甦る。

二度、蘇ります。

そして、「弥勒節」
この作品も哀調があり良い

死ぬ時、音楽が流れるそうなんだが
その楽器を浜辺で流れ者らしき老女から貰うという不思議物語

「クームン」は願い事を叶えてくれる化物

それはもじゃもじゃの頭に着物姿の大人の男だった。独特な足取りで集落の路地を歩いていた。片手に蛇を握っていた。

門や屋根からシーサーが道路を見張り、角という角に魔除けの石敢當が設置されている。 魔除けの魔とはなんなのか、それまでわからなかったが、クームンこそが魔の一種なのだろうと思った。

「靴を持ってくるとクームンが願いをきいてくれるんだ」 実体験から私がそう思っているだけだったが、口にだすと大昔から決まっていることのような気がした。

「ニョラ穴」は無人島に住む不思議ないきものの話し

「ニョラだ」 私は首を捻りました。
ニョラ? 「動物?」
「ニョラ」男は繰り返しました。「なんなのか俺にもわからん。怪物。巨大な蛸とか、ナマコとか、超大型の軟体動物よ。ニョラって俺が名づけたけどね」
「夜のパーラー」「幻灯電車」も雰囲気があり好き。

「月夜の夢の帰り道」、これが一番好き。

〈あなたのお父さんは、死ぬ。かわいそうに。あなたのお父さんはもう長くはない。お父さんが死ぬと、お母さんはあなたを置いてでていく〉
と沖縄に旅行中の少年は見知らぬ女に言われる
そして、そのとおりになり、彼の人生はボロボロになる
彼の人生はうまくいかない
不器用すぎた。

人生は車の運転に似ていると大場は思う。たまにスピードをだしても、ちょっと他所見をしても、粋がって後輪を滑らせても、事故を起こさない奴は事故を起こさないし、捕まらない。そして起こす奴は、みなとさして変わらない運転をしているはずなのに──ネズミとりに引っかかり、小さなハンドルミスに不運が重なり大事故を起こす。

「怖いです、怖くて、怖くて」 何もかもが怖かった。 「いい年してるのに」タイラさんが呆れたようにいった。 「だって、怖くないですか、まるでそこら中に落とし穴がある」 問題は、穴にはまろうが、足をくじこうが、生きている限り日常は続くということだ。

最初の未来予知してきた女というのが
彼と同棲していた女性で実は、彼もそこにいたという

つまり、絶望的な人生を送った彼を救うために
少年の頃の彼に未来予知したという・・・

話しすべて面白く外れなし
みなさんにおすすめしたい良作でした。



2022  6 20
* * * * *
読破NO93


月夜の島渡り (角川ホラー文庫)
恒川 光太郎
KADOKAWA
2014-12-25



独特の世界観でした。とても楽しい短編集。



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恒川さんの作品は、短編が独特で楽しい。
本書は短編集。6つの作品が入っていて、どれもクオリティが高いです。

あとがきの解説に、恒川さんの文体について触れたところがあります。

恒川作品の文体が、まったくといってよいほど奇を衒わず、常に平明かつ明晰でありながら、読む者にたいそうなまなましく、異界の感触と消息を伝えて余りある秘密の一端は、おそらくは、こうしたさりげなく濃やかな措辞のうちにひそめられているに違いない。


異界なんですよ。
初期の名作「夜市」でも感じたが
この異界を感じさせる何かが恒川さんの魅力ではないかと思います。

表題作「無貌の神」。
この作品は、顔のない神がいる世界で、そこには別の世界から人がやってきて
神は定期的に殺されて、その肉を皆で食う
神を殺した人間が次の神となり
神の肉を食うたものは外界には戻れないという話し


「わたしらは神さんで、神さんはわたしらだ。わたしらは神さんに喰われて、神さんは結局は、聖なる食べ物になってわたしらに喰われる。ぐるぐる巡って、その巡りこそが〈永遠〉なんだよ。その一部に加わるのだもの。嬉しいことだよ」

この話しと仏教の「輪廻」って似てませんか?。
話しの底に、こういう何か神話とか民俗学とか、そういう知識が見えない形で組み込まれているのも恒川さんらしい作り方です。

「こうしてあんたの中に入ったんだよ。もう二度と離れることはない」

神の肉を食う
これって、キリスト教の血肉をわけるとか
あの儀式っぽい。


影男は、屈辱や敗北の記憶、自殺衝動といった嫌なものを食べてくれるときもあるが、生きる情熱や、前向きなエネルギーや、幸福な記憶を食べてしまうときもある。
これは12月の悪魔という作品なのですが・・・
何かの神話に出てくる怪物っぽいのです。

これが近未来の刑務所というオチに繋がります
記憶を消され、隔離された街で受刑者たちが暮らしているという世界です
でも、それを本人も読者も最後まで種明かしされない

まるで、影男がいて彼らの記憶を消していて
そんな世界があるかのごとく
そういう世界を現出している

この独特の世界観が、恒川作品の魅力です。
すごく楽しかった。
こういう話しは好みです。






2022 1 23
* * * * *
読了NO16


無貌の神
恒川 光太郎
KADOKAWA
2017-01-28

異能力者を絡めた4つのショートストーリーが、私たちを異世界の先端へと導いてくれる。



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恒川さんを語るのに、日本ホラー小説大賞の受賞者という経歴を忘れてはいけない。
しかしながら、本作は単なるホラーではなくファンタジー要素もあり、土俗の宗教やら異能力っぽいものも出てきて、実に楽しいエンタメ小説になっている。

本作は短編集である。収録されている4つの作品は・・・

冒頭の「異神千夜」だけが元寇の時代を描いたホラーもので、他は現代を描いている。
「異神千夜」は、大陸生まれの女巫術師と、日本人の若者の愛憎を描いた物語だ。
ラストシーンで若者が彼女を殺すのだが、彼女の特質である他人を自由に操作できるという能力は消えていたと思われる。若者との間にできた娘に継承されていて、それは窮奇(中国の霊獣)というものである。彼女が鼬を飼っていたのだが、これが後の物語にも出てくる。

「風天孔参り」は、山奥の
寂れたレストランに現れた若い女と自殺志願者の集う雷獣の棲まう穴の物語で、その穴に入ると消えてしまう。レストランの主人と若い女の関係性を見事に描写していて、恋愛に近いのような淡い感情を浮き彫りにすることで、この不思議の穴の存在が余計に印象に残る構成となっていた。

人間に憑依する優しい森の霊「森の神、夢に還る」にも、鼬行者なる占い師が出てくる。

「金色の獣、彼方に向かう」は、金色の鼬を飼うことになった少年の視線で、知り合いになった殺人犯の娘と猫の墓掘り人との不思議な世界を描くモノなのだが、この猫の死体を埋めるために墓を彫り続けている男が、少女が殺した義父をそこに埋めるのである。少年は鼬に憑依し鼬の目線で世界を外側から観察する。

物語には独特の世界観が存在していて、1つ1つが独立しているようであり、繋がっているようでもあった。
最初の元寇の話しが始まりで、あの女巫術師の子孫と、彼女が連れていた鼬が関係しているのかもしれない。異能力の使い方が秀逸で、思わず物語世界に引き込まれていく。ハリーポッターよりも、個人的には面白いと思うのでした。


2020 6/7
令和2年98冊目
*****



異神千夜 (角川文庫)
恒川 光太郎
KADOKAWA
2018-05-25

私は繰り返すのだ。毎日が11/7。どこかで出会ったような、出会ってないような物語。


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表題作「秋の牢獄」は、11/7を何度も何度も繰り返す。
彼女だけかと思いきや、お仲間たちがいるのだが、その人たちが1人、また、1人と消えている。
一切、説明がなく、ただ、現実にそうなるのだった。
白い幽霊のような存在と出会うと、消えるのではないかと言われていて。
死ぬのか、それとも11/8に進めるのかはわからない
映画か何かで見たことのある設定なのだが、読んでいるうちに気がつくと夢中になっていた。
出来はかなり良い。
この浮遊物体の名を彼らは北風伯爵と敬意をこめて名づけるのだが、これも、また、良い。

犬飼さんという人がいる。
この人の妻は、若い男と浮気している。
毎日、11/7を繰り返していて犬飼さんは、たまたま、二人の浮気現場に出くわした。
これは地獄だ。
翌日になると、また、笑顔の妻との会話からスタートしなければならなくなるのだ。
何回目かで妻と相手の男を殺した。鉄パイプで肉塊になるまで殴った。
でも、朝になるとリセットされるのだ。
そこには笑顔の浮気妻がいる・・・。

面白かったのは、11/7をずっと繰り返しているうちに、ある考えにたどりついたこと。

不思議なもので、何度も同じ1日を繰り返していると、はるか昔から世界はこうだったような気すらしてくる。11/7以前の歴史や私を含めた人々の記憶は世界を騙すために巧妙に作られた偽者で、世界はそもそも11/7しかなかったのではないか。


希望とは、明日があると考えることだ。

この言葉が重い。11/7を繰り返すことに希望はない。
それは地獄だ。

キャラも立っているし、ストーリーは細部まで丁寧に描かれているから読み応えもあり、この作品だけでも読む価値はあると思います。

「神家没落」は、ある古ぼけた家にお面の人が住んでいて、その人の代わりにさせられた男の物語。
そこが神の家で、選ばれた(なった)人は、そこから出られない。その家は一か所に数日滞在し、他の場所へと移動していく。それを繰り返す。
自分の代わりを見つけて、その人に家をまかせれば出れる。
彼は、騙し討ちのような形で男に任せるのだが、そいつが殺人鬼だったって話し。
発想がすごくおもしろい。でも、ハウルの動く城って映画に何となく似ている。こっちの方がストーリー的には面白いけど・・・。

「幻は夜に成長する」は、ある新興宗教に囚われになった能力者の話し。ひどい境遇なんだ。その彼女の過去を語る。祖母と思っていた能力者との4か月間の不思議な共同生活から、能力者として目覚めていく過程、どのようにして囚われの身となったのか。

3作品ともSFのようであり、どこかで読んだり見たりした設定なのだけど楽しい。とにかく楽しい。いい読書となりました。


2020 5/31
令和2年 90冊目
*****


秋の牢獄 (角川ホラー文庫)
恒川 光太郎
角川書店(角川グループパブリッシング)
2010-09-25





人間には、神の代わりは無理だ。あまりにも愚かで、やればやるほど世界は苦痛が満ちてくる。



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ライトノベルに冒険小説を足したような物語だった。
スタープレイヤーの続編である。

今回は2つの物語が同時進行で展開する。
後半で交わるのだが、そこから怒濤のラストなのですよ。

死者の国。ヘブン。ここには、日本の死者が集められた町があって、そこで暮らせというわけである。周囲には獰猛な獣が住んでいて危険なのでした。探検隊を編成し、ドームのような遥か遠くの建物を目指して探検に行きます。

もう一方は、切ない恋の物語という導入からスタートする。
中学時代の同級生で片思いの相手だった華屋律子に死なれ生きる気力を失った 私は、砂浜で 長身の奇妙な男と出会い薦められるままに籤を引く……。

そして、異世界にやってくる。「スタープレイヤー」と同じで10個の願いを叶えられるのです。ですが・・・。

 彼の中にあるのは、初恋の人華屋律子の復活だけ。
 彼は、地元である藤沢市という町丸ごとと彼女を復活させる。
 二人きりで暮らしている間は良かったのですが、第三者と遭遇し彼らの町へと引っ越し、彼がスタープレイヤーであることがバレると、華屋律子との関係もおかしくなっていく。律子に隠し恋人ができる。彼のボードを盗もうとする。失敗すると彼を暗殺しようとする。

 人間の心というのは難しい。コントロールできるようなものではない。

 彼女は、彼を非難する。

「そんな 人生 楽しい わけ?   みんな がさ、 苦労 し て、 互いに 手 を 差し伸べ あっ て、 どうにか やっ て いく のが 人生 って もん じゃ ない の?   あなた の し て いる こと、 結局 は、 全部 ズル じゃん。 私 は ズル を し た 人間 が 何 を 成し遂げよ う と 評価 し ない。〈 でも、 ズル し た ん だ よね?〉 って 思う だけ」

 これは辛い展開。彼女に裏切られるなんて・・・。
 彼女に彼を非難する理由なんかないのに・・・。
 
 彼は、一人で町を出る。

その こと を 考える と、 私 は 自分 が 原子爆弾 の 上 に 立っ て いる よう な 心許ない 気持ち に なる。   なん でも できる。 だが、 下らない 人間 は 下らない こと しか し ない し、 みっともない 人間 は、 みっともない こと しか し ない。   執着 し ては なら ない。

 所詮、人間が神になれるわけがないということなのですよ。
 下らない人間は下らないことしかしないし、みっともない人間 は、みっともない ことしかしない。
 悲しいが人間には我欲というのがあり、どうしても、そうなってしまうのです。

   人 は、 自分 は 何 かを する 為 に 生まれ て き た という 考え ─ ─ おそらくは 幻想 ─ ─ にとり つか れる もの だ。   そして、 たとえ 錯覚 で あろ う とも、 し なく ては なら ない と 己 が 思いこん で しまっ た もの に 気持ち が 動い て しまう と、 もう 抑え が きか なく なる。

 神のような能力を手にしたがために、彼は何かをせずにはいられなくなる。


 それで彼がしたことは、天国と地獄を作ること。
 天国とは、病気や事故で死んでしまった善良なる人たちを復活すること。
 地獄とは、犯罪者をつれてくることだった。


同じ 大地 の 同じ 空 の 下、 加害者 が 処罰 さ れ て こそ 善悪 の 天秤 で あり、 地上 では なかなか 実現 し なかっ た 正義 では ない だろ う か。   私 は 約 五 千人 の 犯罪者 を、 甲羅 を 背負っ た 亀 人間 に し て バベル の 一部 に 収容 し た。   区分け し た エリア は 全部 で 十 五 か所 ある。   だいたい 一 か所 に 三、 四 百 匹 ほど いれ て ある。   ほとんど は 殺人 犯 を はじめ と する 重 犯罪 者 だ。

 亀人間に対する作者の扱いは悲惨そのものだ。罪人だからと家畜扱いである。
 「スタープレイヤー」でも、罪人を連れてきて拉致監禁しイジメていたが、作者には悪人はやっつけてOKという考えがあるのだろうか?。

 最初に話したヘブンが、この天国であり、バベルから逃げ出してきた二階堂(亀人間)は、華屋律子の元恋人であり、彼女が別れたいと切り出したとたん、彼女を殺害した男なのである。
 だが、二階堂に同情すべき点もある。「好きな人ができた別れて・・・」というのはないと思う。
 
 二階堂の亀の甲羅には罪状や名前が刻まれていた。こんなのは人権侵害に近い侮辱に思える。この亀人間をイジメたり、惨めな姿を披露したり、亀人間の恋人になった女を目の前で殺したり、物語のトーンが急に変化し残酷になる。天国の死者復活組は善人で、犯罪者亀軍団はクズのように描いているのだが、読んでいてちょっと辛い。二階堂が殺人をしたのは、彼が華屋律子と出会い。付き合おうと言ったからであり。その時点では、華屋律子の行為は浮気なのだ。亀人間をイジメのは本末転倒である。

 彼は、バベルの塔に亀人間を飼いつつ。外の世界では、迫害された民族と一般国民が差別なく暮らせる理想郷を作ろうとしていた。これに、私はすごい矛盾を感じる。
 ある程度、上手くいき、もう後はみんなに任せようとなったが内部分裂し殺し合いが始まる。

 結局、人のやることなんか中途半端で神にはなれない。
 人間は予測不能だ。
 

 細かい冒険の話しは語らない。そこは読んでいて楽しい。ストーリー展開も、よくできてある。
 しかし、メインのストーリーラインをたどっていくと、この物語は前作に比べて、かなり劣るのではないかと思えてしまう。
  
 この亀人間、彼が元の世界に戻る時に人間に戻されるが、この世界には昔の記憶のない華屋律子がいるんだけど・・・。亀人間の本質は変化してないと思うので、二人が出会えば悲劇が起こる可能性はありだと思う。亀人間は華屋律子を、まだ、愛していて恨んでいるのだから・・・。
 亀人間の開放ですら、何か危険の可能性を感じてしまうのだ。
 ようするに、人間が神の真似事なんかするべきではない。そんな能力を与えられても我欲があるから、ろくなことはしないと思うのです。それが、この物語の教訓。
 
2020 3/3
令和2年37冊目
****


 




自由であることと、不自由であることは、どこでかで繋がっているのだなと思った。


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 抽選に当たりましたと言われて、異世界に飛ばされた中年女斉藤夕月(34歳・無職)。
 その世界では、彼女は10の願い事が叶えられる。
 アラジンの魔法のランプか、ドラゴンボールの神龍的なラノベ。もしくは、ゲーム系なのかと思いきや、そこは
恒川光太郎。そんなわけはない。

 恒川の代表作「夜市」は日本ホラー小説大賞を受賞していて、少しホラーテイストの強いファンタジーを描く短編の名手なのだが・・・。これはかなり違う。

 説明書きによると「RPG的興奮と神話世界を融合させ、異世界ファンタジーの地図を塗り替える、未曾有の創世記」なのだそうだ。それは何か違う気がした。


 前半は、自堕落な女色が強く、実家を再現させたりカップ麺のような食料。宝石や綺麗な王宮のような庭。それに自分の容姿を美しく整形と自分の欲望に忠実なのだ。
 読んでいて、「あほだな・・・」と思ってしまう。彼女は、過去に強盗に襲われて大けがをして人生が狂った過去があるのだが、その犯人召喚し監禁しイジメるところは粘着質なホラーのようであった。

 中盤、同じ参加者であるスタープレイヤーであるマキオと出会う。彼は20年もこの世界にいるとか、自分たちはコピーであり、元に戻るという願いをしても消滅だけとか言い出す。
 そこから、他国の紛争などに巻き込まれて、我欲だけでは生きていけなくなる。ここからが物語が加速度的に面白くなっていく。透明な女剣士が出てきたり、亡国の王子が亡命してきたのをかくまったり・・・。とにかく、かなりおもしろい。だから、説明はしない。

 私が注目したいのは、
10の願いが叶えられるということである。
 これは年を取らない設定みたいなので、永遠に生きると仮定すると少ないし、この手の小説としては多すぎる。
 実は、この欲望を叶えるという行為そのものが、この物語とモチーフなのではと思うのだ。先ほど説明した通り、前半の
夕月の願いはクズである。「あほじゃないか?」と思わず本につっこみを入れたくなるのですが、中盤以降、人間と関わっていくうちに、のっぴきならない状況に追い込まれていく。

 マキオのタワー村の人たちと関わっていくうちに、顔見知りが増えてきて、子供を失くしたという親たちが、
夕月が特別な存在。神近い存在であるかもと思い彼女のところにやってきて、土下座し「子供を・・・」と泣いて頼むのだ。

これ まで、 ずいぶん、 くだらない こと に 星 を 使っ た と 思う。   ああ、 そう とも、 私 の 庭 には 黄金 が 一 トン だって ある だろ う さ。 通り魔 の クズ は 苦しん だ だろ う さ。   次 は 何 に 星 を 使え ば いい?   くだらない こと しか 思いつか ない ので、 あえて 使わ なかっ た。   そこ に、 子供 たち を 救う 機会 が き た。

 夕月は、ここではじめて他者の為に星を使うのだった。
 彼女は人と出会うまでは自由に生きて来れた。好きな願いができた。されど、人と関わったとたん、不自由になった。
 これが、この物語のモチーフなのではないのか?。
 夕月は、この世界では神とコンタクトができる特別な存在なのである。だから、彼らはそのような人間として特別視してくる。頼み事をしてくる。これは強者の宿命である。

 隣国の統治代理者が接触をはかってきた。後に、戦さになる相手だ。

「なん でしょ う」 「ラナログ さん が、 スター プレイヤー だっ たら 何 を 願い ます か?」   ラナログ は ふん、 と 顎 に 手 を やっ た。 「別に 何 も。 夢 は 己 の 力 で 叶える もの。 世界 は 人々 が 知恵 と 勇気 で 切り開く もの。 では ごきげんよう」   彼 は 三人 の 付き人 と 一緒 に 去っ て いっ た。


 同じ地球人で元俳優のラナログ は、願い事なんか無意味だという。己の力でなしとげると言う。そして、彼は夕月たちの国に攻め入って来た。

 特別な能力があることは、時に彼女を苦しめた。自分のことだけに、その能力を使っていた時には、こんなことは考えなかった。

   何 でも できる。 何 でも できる。   でき ない という こと は、 心地 の よい 眠り に 近い。 何もかも 諦め て いい。 でき ない の だ から。 仕方 ない は 魔法 の 言葉。   それ に 比べ て、 できる という こと の なんと 過酷 な こと か。 できる 人間 には 責任 が ある。 できる 人間 はやら なく ては なら ない。   私 には できる。   どんな こと でも。

 彼女はどんどん不自由になっていく。追い込まれていく。敵は大軍だ。自分たちは追い込まれていく。何とかしなければと焦る。
 
 私 は もはや 自由 では ない。   人 は ひとたび、 社会 という もの に 関わっ て しまえ ば、 否応なしに、 自分 の 主義 主張 だけで 生きる こと を 許さ れ ない。



 10の願い事を通して、この小説は人間の自由や不自由を考察している。社会に帰属することで、人間は他者をも背負って生きていくということを強いられてしまう。それが社会的な責任である。弱者が目の前にいたら助けられずにはいられない。自分のことだけを考えてはいられなくなる。それが人間なのだ。
 本当の自由ってな ん だろ う?
    自由は楽しいものだ。その自由が人と関わることで狭まっていく。自由を行使するのに慎重になる。臆病になる。大切な時を見計らって使うようになる。それは皆の幸福の為。
 自由と不自由はどこかでつながっている。
 そんなことを思った。



2020 2/28
令和2年33冊目



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