絶望的に根が暗い。悲劇的な短編集。なのに、ページがとまらない。



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ピランデッロ・ルイジ
1867‐1936。イタリアの作家・劇作家。1921年初演の『作者を探す六人の登場人物』で、世界的に知られるようになる。1934年、ノーベル文学賞受賞。1936年、肺炎で死去

という素晴らしい経歴なのだが・・・。
本書を読んだ感想は、根性が゛ひん曲がっているんじゃないか、この人だった。
根の部分が暗い。まるで、全人類を恨んで死んでいった亡霊か何かが書いたような作品で、うんざりする。文体も内容もテンションが低くなるような感じなのだ。

作者は、短編の名手である。
この文庫に収められてるのは全短編249編のうちの厳選ピックアップされた15編。
収録作は以下の通り。

月を見つけたチャウラ(1912年)
パッリーノとミミ(1905年)
ミッツァロのカラス(1902年)
ひと吹き(1931年)
甕(1909年)
手押し車(1915年)
使徒書簡朗誦係(1911年)
貼りついた死(1918年)
紙の世界(1909年)
自力で(1913年)
すりかえられた赤ん坊(1902年)
登場人物の悲劇(1911年)
笑う男(1912年)
フローラ夫人とその娘婿のポンツァ氏(1915年)
ある一日(1936年)


表題作と、「登場人物の悲劇」「手押し車」「甕」あたりは有名だから知られているかもしれないが、他はまったく聞いたこともない作品ばかりだった。

私がおもしろいと感じたのは、「
パッリーノとミミ」。「ミッツァロのカラス」の動物ものと、「紙の世界」や「登場人物の悲劇」の創作に関するものに妙味を惹かれた。「笑う男」も好みの作品だ。
逆に、動物虐待を想起させる「
手押し車」や寸劇のような「甕」。良く出来ているのだが、「ひと吹き」は好きじゃない。

どんな風に暗く絶望的なのかを説明する。
それで作品の雰囲気がわかって貰えれば幸いです。

紙の世界」の主人公は学者さんで本の虫。目が悪くなり見えなくなった。それを他者のせいにしたり、朗読の女を雇ってみたが気にいらなかったり、最後は黙読させる。
つまりは、沈黙の世界。人とは交わらぬ紙の世界(孤独)を彼は好んでいたのだというオチは怖い。
手押し車」は、心を病んだ教授が、年老いた愛犬の後ろの両足を掴み手押し車のようにするラスト。この行為は、子供の犬へのおふざけとは違い。男の心の中にある狂気が反映されているのだ。
笑う男」は寝ている時に笑う男の話し。彼の現実は厳しい。老齢であり、妻は心を病んでいた。息子の嫁は夜逃げし、たくさんの孫を彼が世話をしている。現実は苦痛だらけだ。ある時、自分が何で笑っているのかがわかる。夢を見て笑っていたのだ。それはある人が極悪なイジメを受けているもので、それを蔑み笑うという最悪な行為をしていたというラストがきつい。

他にも、イジメまくられた犬が、好きになった裕福な綺麗な雌犬を妊娠させ、彼女は飼い主に捨てられ、ボロボロになり誰からも見捨てられ、野良犬となり彼を頼ってくるが、彼からも相手にされない「パッリーノとミミ」。彼女が裕福で羨ましかったから好きになったのであり、自分と同じ境遇の彼女には興味がないということである。
「登場人物の悲劇」は、作者に登場人物が文句を言う話し。いかに自分が理不尽な目にあっているか・・・。
ひと吹き」は、息をふきかけたら人が死んだ。そういう異能力者の話しかと思ったら、ラストで疫病が彼の正体だったとか。

とにかく、話しが暗いが、何かよくわからないが惹かれた。
たぶん、その時代のイタリアの社会現象とかがベースになっているのだろうが、そういうのは、よくわからないのでした。


2020 4/2
令和2年 53冊目
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