武藤吐夢@ BLOG

令和になって読んだ本の書評を書いています。 毎月、おすすめ本もピックアップしています。

カテゴリ: 歴史専門書

読み手によって、たぶん、受け取り方も変わるという歴史もの。モチーフは神。



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正史には書かれていない、薄められている神について書かれた本です。
知らない神ばかりでした。

日本書紀や古事記には書かれていない神というのもあるとのことでした。
正史は、天皇家の先祖である天照大神を中心にした
王家の正当性を証明する
西洋で言うところの王権神授説みたいな感じであります。

しかし、大和王朝が征服した地域にも神はいた。
それは朝廷の中に内包されていった。

例えば、初期の大和朝廷があった場所
奈良のあたりですが
ここは、物部氏の領地ではなかったかと思える
ニギハヤヒという神は敗者の神ですが
この神が大和朝廷の先祖に、あの大和の地を明渡し臣下になった
どうも、このニギハヤヒという神は物部氏の祖先ではないのかと・・・

菅原道真や平将門のような怨霊が神になるパターンも示されていました。
これは神の世界の新しいムーブメント
つまり、新風、新興宗教です。
それを、朝廷はすべて内包していったと考えられる
つまり、飲み込んだ。

京都の八坂神社というのがあります。
有名な怨霊を鎮撫する神社です
疫病退散などの祈願をしています

ここで祀られているのは牛頭天王です
これはインドの神様
疫病の神様です

つまり、疫病を追い払うべき神社の神が
疫病の神という矛盾です。

他、天理教やら、胡散臭い神様も並列的に列挙されています。
後半は、ほぼ、そういう話しです。
はっきり言って、後半は面白くない。

某宗教団体が話題になっている今
新興宗教は否定的な見方をされています

神の存在自体が胡散臭いと感じ始めている今
明らかに、宗教を、神話を自己の政権の正当性として
かつての絶対王政の王権神授説みたいに利用した大和朝廷
その初期の政権基盤が、呪術的なシャーマニズム世界の邪馬台国の卑弥呼の価値観と
さほど変化はなかったと本書は示していて

ようするに、大和朝廷は、色んな勢力を吸収し自分の中に取り入れていった
神話はそういう物語であり

そして、大和朝廷が天皇家にかわった平安時代においても
菅原道真のような、政権を恨んで死んだ怨霊すら
それも神として取り込み、北野天満宮の学問の神様にしてしまったということです

そして、無数に存在する新興宗教や胡散臭い神
それをたくさん列挙することで
何か作者は僕たちに見せようとしている

それは、その胡散臭い神たちと
神話と、どれくらい違うの?
それって、政権の正当性を証明するために作られた話しでしょ
みたいな感覚を抱かせるのが目的なのかと感じました。
だとしたら、作者は成功したと言えます。






2022 11 19
***
読破NO185



秘められた神々
古川順弘
エムディエヌコーポレーション
2022-09-26

2022年NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の世界を堪能できる本!


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2022年NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の世界を堪能できる本です。


歴史書というのは、だいたい歪められていて
信長公記などの信長の記述は、かなり残虐で悪意すら感じます。
吾妻鏡も同じで、明らかに北条氏の影響が関与し歪曲されていると思えます。

しかし、本書はそれを踏まえて、他の文献も合わせて語るという形ですから信頼できます。
また、愚管抄の作者慈円が語るという物語形式なのでとっつきやすいのもいいです。
ただ、重複の記述も多く。初心者向けです。

大河ドラマでは、主人公の北条義時の妻である八重ですが・・・

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伊東の娘であり、頼朝と恋仲になり子を産むも父親に露見し
子供を殺されて、2人は引き裂かれる。
ここまではドラマのままですが、本書では、吾妻鏡には
この八重、頼朝を訪ねていく、すると政子とくっついているのを目撃。
ショックで入水自殺するとのこと。

えーーー
義時と結婚しないのか。
三谷め、やりやがったなーーーー
って話しなんです。

次に、印象に残ったのは頼朝です。
義経の軍略を恐れて追い詰めて殺したのですが
頼朝って、義経や義仲の息子だけでなく、親類も殺しまくっている
義経と一緒に平氏と戦った。
そんなに天才というわけでもない従順な弟の範頼も流刑とかにして排除しているらしいのです。

さらに、不思議なことに
頼朝の死については、ほとんど書かれてなくて
死ぬ3年くらい前から記述がないとのこと。

北条にとって不都合な何かがあったんじゃないかと思ってしまいます。

次女が暗殺疑惑があるだけに、もしかすると・・・。

鎌倉の十三人というドラマのタイトルが不思議に思っていたのですが
鎌倉殿。頼朝が死んだ後、息子の頼家が将軍になるのですが、この人がおバカ。
なので、北条や三浦、和田、梶原、比企・・・、あの面々がサポートすることになったのです。
そのメンバーが13人いたということでした。

そのアホぼんの頼家は、どうも毒でも盛られたみたいな感じがします。
ようするに、弟の実朝を次の将軍にしたい北条時政と頼家の幼子を次の将軍にしたい比企の対立があったみたい。

頼朝が死んだ後の時政の印象が全く違う。
極悪人です。
権力の亡者。
最後は、政子と義時に排除される。
だから、北条において時政の評価は低く、3代執権北条泰時は、頼朝の供養は欠かさなかったが、祖父の時政についは供養しなかったとのこと。
どんだけ嫌われているのかってことです。

人の良い、あの大河ドラマのおじさんと別人みたいなイメージです。


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三代将軍になった実朝ですが、甥の公暁に暗殺されます。
これで源氏は滅亡します。

この暗殺の直前、義時は病と称して別人と役目を変更しています。
そして、その人が巻ぞいを食い殺されています。

そんなんおかしい と本書では言っている。

どうも、公暁の背後には三浦がいたらしいが
義時が生きていると知ったとたん、三浦は公暁を裏切り
義時に寝返ったとのこと

梶原、比企、和田・・・
次々と罪を被せられ滅亡させられていく

歴史は勝者が作るとは言え、これは酷い。

鎌倉の歴史は、武家のドロドロした欲望の暗躍がなしえたものだと言えます。
ドラマとは、まったく違う。
ドロドロの世界です。







2022  6 14
* * * *
読破No90




歴史認識は常に変化している。この面白い授業は、本当に楽しい。



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歴史の本で講義形式になっていて
1つの講義は20ページくらいなので簡単に読めます。
知識は中学入試レベルで対応できます。
歴史の好きな人向けに書かれた専門書でありエンタメですね。


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歴史認識は常に変化しているもので、子供の時に習った知識は常に変化しています。
それは5年とか3年くらいで激変していることもあり、本書はそういう歴史認識の変化がメインです。

面白いと思ったことを3つだけピックアップしてみます。


聖徳太子についてです。
学生の頃に授業で習った聖徳太子は、冠位十二階、十七条の憲法、遣隋使。
古代政治のパイオニアというイメージでしたが、本書ではその認識が激変します。
確かに、今でも小学生の教科書にはそう書かれていますが
高校になると、それらの功績は、推古天皇、蘇我馬子、厩戸皇子(聖徳太子)によってなされたとなります。つまり、みんなでやったということです。
聖徳太子自体、もしかすると存在してなかったのではという説もあります。
これにはびっくりです。
10人の人の話しを同時に聞けるとか、絶対に嘘だと思う。

関ケ原の戦いというと小早川秀秋が裏切ったことで西軍は敗北したということになっていて
家康が内通していた小早川に、鉄砲を撃ち、早く裏切れと催促したというエピソードが有名ですが
どうも小早川は最初から徳川方についていて、裏切ったというのではなかったということでした。
いつも関ケ原に話しがなると小早川の裏切りが話され、悪役というか最低な人間にされているのですが
どうも、そんな事実はなかったようです。
堂々と最初から東軍として参戦していたとか・・・。

そして、坂本龍馬。
歴史好きの人の大半は彼が好きで、 竜馬がいく とか読んで子供の頃から興奮してたのですが
何か違うみたい。
薩長連合を企画したのは事実だが、小説などにある中立な人ではなくて
国家の未来を考えての英断ではなさそう。
彼は完全に薩摩側に雇われている人であり、この案をどうも考えたのは小松帯刀とか西郷隆盛だつたみたいなんですよ
西郷と桂小五郎が会談する席で、険悪な雰囲気のところ竜馬が遅れてやってきて話しをまとめたという話しも眉唾ものみたいです。
ようするに、薩摩に頼まれての仲介役。
実際、外国と貿易ができなくて武器が手に入らなくなっていた長州に薩摩名義で武器を買った話しがありますが、坂本龍馬が絡んでいるというか商売。これは司馬遼太郎の小説にもあるエピソードです。
しかし、竜馬のやったことは事実であり、その評価が変わるとは思いません。

後、田沼意次がすごい人だったこと、徳川吉宗の改革がよりよく理解できたとか。
知っていることもたくさんあったが、知らないこともあり楽しめた。
田沼が失脚しなかったら、日本は早い時期に重商主義を採用していて・・・。そういう歴史の可能性があったということです。

やっぱ、知らないことを知るのは楽しいですね。


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読破no48






子供にもわかるように書かれた人類史の本でした。


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『サピエンス全史』の子ども版ということらしい。
わかる、わかりやすい。
それをかなり意識している。

だからか、内容が少し希薄に感じる部分が多々あった。
こども向けと言っても世界史の知識がないと楽しめないと思う
本書は、人類史である。

古代史の部分に紙面を割いていて
人間がどのようにして、今の営みに至ったのかを説明している。
知っていることばかりだった。でも、知識が離島状態だったため
この本により橋渡しされすっきりした。

赤裸々に人間のこれまでの営みを綴っていて
宗教とは、政治とは、金とは・・・
それが統治機構として利用されたこと
支配、金、権力のため
文化圏が利用されたこと
宗教は統治機構の1つであると明言しているのも好感できた。

ようするに強い国が、弱い国に自分たちのスタイルを押し付けて
自分たち色に染めていった
それが人類の歴史なわけだ。

人を集団の単位で見ていた昔は
征服した者の宗教や政治機構、言語を強制される
しかし、現在は人を個人と見るターンに入っている

自分の意見が言える世の中というのは
実に、健全であると思う。

2021 8 3
92冊目の読書
*****


こどもサピエンス史 生命の始まりからAIまで
ベングト=エリック・エングホルム
NHK出版
2021-07-12

漫画で中国とアラブの歴史と思考が理解できるという優れた本でした。



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不思議な国中国とアラブ諸国。
どうも理解しずらいのですが、歴史を概観してみると
その思考形態のルーツのようなものが見えてきます。
わかりやすくコンパクトに歴史をまとめた良書
漫画なのでわかりやすいのがいいです。

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何故か、国がみんな萌え系の美少女キャラ
だから、楽しんで歴史が学べます。

中国が、覇権主義なのは
アヘン戦争にさかのぼる列強諸国による収奪の経緯があると思われます。
中国は昔から、民衆の一揆で国が転覆した経緯があり
国民を情報統制するのは、逆に、彼らを恐れているのではないかと思われるとのことです。

アラブの歴史については知らないことばかりでしたから
とても興味深く
フセインやイラン、イスラム国などを悪役として認識していましたが
過去におけるイギリスの暗躍はひどいものがあり
アラブ人の統一を邪魔する動きをしていたのです。

この漫画を読むと親米派のサウジなんかが
ヘタレの米国の飼い犬のように思えてしまいます。

大雑把であれ、彼らの歴史を知ることは
彼らに対する理解につながるのであり
とても有意義だと思います




2021 5/11
54冊目の読書
*****


ゆげ塾の中国とアラブがわかる世界史
野村岳司
飛鳥新社
2015-12-03

ざっくり中国の近現代史がわかる本です。中国の思考の原理はおもしろかった。




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爆買い、言論統制、暴動・・・、謎の多い国である中国を知るのには、近現代史を知るのが近道であると著者は言う。



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ざっくりわかりやすく復習できる良書です。
ラインナップとメモ書き程度の説明を上げておきます。



・アヘン戦争
・太平天国の乱・・・キリスト教徒洪秀全の反乱。
・アロー戦争
・清仏戦争・・・ベトナムを巡る中国とフランスの対立
フランス勝利でユエ条約を結びベトナムはフランスの植民地へ。
清の朝貢体制が崩れ始める。
・日清戦争・・・まさかの敗北で朝貢体制の崩壊。
死せる豚と呼ばれるようになる。
・義和団事件・・・清を助け外国を滅ぼそうとする集団と西太后と手を結ぶが敗北し外国と北京議定書を結ぶ。
・孫文と袁世凱の革命・・・不満爆発し各省が独立していく。
・辛亥革命・・・清滅亡。しかし、袁世凱も不人気。
・21カ条要求・・・反日感情発生。日本が中国に無理難題を要求。
・第一次国共合作・・・中国まとまる。
・北伐が国共を引き裂く・・・中国はいくつもの軍閥が地方に点在していた。蒋介石により全国統一。一方、毛沢東も中華ソビエト共和国を設立。
・満州事変・・・柳条湖事件勃発、満州国誕生。調査団がやってきて、日本は反発し国際連盟を脱退。
・日中戦争・・・蒋介石は外国と戦うよりも共産党と戦うことを選ぶ。長征。西安事件。盧溝橋事件が続き、再び両党は団結。第二次国共合作。抗日民族統一戦線。長期化へ。
・中華人民共和国の誕生・・・太平洋戦争終結。ふたたび、国共内戦へ。土地改革が人気で共産党が国民党を逆転。国民党は台湾へ。
中華人民共和国成立。
・朝鮮戦争
・大躍進運動・・・毛沢東大失敗。実権派が台頭する。
毛沢東、紅衛兵を使い権力を取り戻す。文化大革命。
・改革開放が現代中国を作った。
政治は共産党政治のまま、経済を自由化した。
民主化を求めるデモが天安門事件。
経済発展


・中国の思考の原理

中華思想・・・中心に華が咲き誇っている優雅な様子。
外の世界は野蛮、粗暴となります。
考えの基本は儒教で、「都合のいい決まりをつくって庶民との溝を深めるのです」。このような溝が格差として、まだ、中国に残っていると著者は言います。

朝貢・・・中国様への御挨拶。儀式。貿易も、この朝貢より始まった。
科挙・・・実力至上主義の試験。士と庶の隔たりを強固なものに。
地縁血縁を重視。
共産党が土地改革をし人民に土地を分け与えた理由は、地縁血縁による革命を恐れていたから。
管理通貨制度により、中国は閉ざされた完全管理社会になった。

少し著者の中国に対するネガティブな記述が気になりますが
事実を羅列するとそうなるのかもしれませんね。

2020 8/9
令和2年 141冊目の読書
***





日本史の講義では習わないが本当の話し。天皇に関する議論は楽しかった。



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歴史には「空白」がある。
教科書では習わなかった真実の物語は楽しい。
しかし、愚痴や雑談も多かった。主観的なのも気になる。
歴史に詳しくないと楽しめないかもしれない。
でも、歴史好きにはたまらない本です。

歴史の資料には空白があると著者は言っている。
それは日記や古記録で補完されることもある。
儀式は重要視されていたので記録や日記を残していた。

鎌倉時代のことを知る上で大切な古記録の「吾妻鏡」
色んな種類があり「北条本」が有名だ。これは北条家から、黒田家にわたり徳川家にという経緯をたどったと私は大学で習ったが、本書では、本当は徳川家が各地に散らばっていた吾妻鏡を収集しまとめたとされている。家康が集めたのだから徳川本である。じゃ、何で「北条本」と呼ばれているのだろう。

1199年の頼朝の亡くなる部分は欠けているという。
上総介広常の死についても空白。
著者は、彼の死を頼朝の命令で梶原景時に暗殺されたと思っている。
それを別の資料や景時が処罰を受けていないことなどから推測。
このようにして歴史の「空間」。資料の欠損を補うこともあるという。

古代大和朝廷は、東に無関心で、むしろ西に興味を示していた。朝鮮半島にも利権があったと思われるが、白村江の戦いに敗戦しすべてを失った。
西国中心の大和朝廷だったが、壬申の乱の時、大海人皇子は東から兵を募った。それは西国の疲弊が原因。以後、東国にも注目するようになった。

 幸徳秋水らが起こした大逆事件については、天皇家は北朝出身なので正当性がないとするものだった。このことについて学者が調べることを政府要人は神経をとがらせてはいなかった。
 しかし、次の世代になると皇国史観が台頭してくることになる。

 古代から中世において、天皇家は神道よりも仏教とのかかわりが強かったが、今はそうではない。伊勢神宮と天皇家がずっと親密だったという話しは疑わしい。
 天皇が神道一辺倒になった理由。三種の神器が即位には必要だからだ。
 剣は壇ノ浦の戦いで水に沈んた゛のでは・・・。後醍醐天皇の時代、剣はすでになかった。
 何故か、南北朝時代には、三種の神器は3セットあった。
 三種の神器を持つものが真の天皇の後継者であるという思想は、この南北時代の対立から勢力の弱い南朝方が作った理屈でした。
 明治政府が、この「本物の三種の神器を持つものが天皇である」という思想に拘ったのは、伊勢神宮を特別な存在にしようとした意図がある。つまり、天皇を中心とした中央集権体制をイメージしていたのだ。それに「神話」を繋げた。伝統のある古い国家であるという宣伝だった。
 しかし、昭和になると「我々日本の天皇は古い歴史を持っているから、だから、日本人は偉い」と思想を変換させた。これが皇国史観だ。

 伊勢神宮重視の考え方により、廃仏毀釈が起こった。
 仏教に対する攻撃である。それにより無数の重要な仏教美術が破棄された。中国の文化大革命やイスラム過激派の石仏破壊と同じようなことが日本にもあったのだ。
 神道には教義がない。あるのは儀式やセレモニーだけ。
 その神道を明治政府は利用した。

 平安時代の男性が女性の家に通う婿取り婚から、現在の嫁取り婚に形が変化したのは、平安の後期であり摂関政治、天皇の母親の実家が権力持つから、院政、天皇の父親や兄が権力を持つに権力構造が変化と同時期。権力は母方から父方に移行した。

 古代日本では、天皇は兄弟間で継承することもよくあった。
 これは単婚小家族の特徴で、この形態の家族は兄弟が平等に扱われる。
 ところが天智天皇や天武天皇の時代以降には、皇位は父から子に継承されることが多くなっている。
西暦700年ごろに、単婚小家族から、直系家族に家族形態が変化したのではと思われる。この時代は日本の基礎ができた時代。元号、律令の制定や「天皇」という言葉も生まれた。
 直系家族の元では跡取りは1人であるため兄弟姉妹は平等には扱われない。長子相続が生まれたのは江戸時代以降。これは儒教の影響。西洋では、男女を問わず最初に産まれた人が優遇され、遊牧民の場合は末子が親と暮らし、その財産を相続する。

 女性の地位は江戸時代に儒教の普及とともに下落した。平安時代や戦国時代には、まだ、自由な気風があった。男女間の関係においてもそうで、厳しくなったのは江戸時代から明治以降です。

 主観や個人的な意見が本書は多い。
 たとえば「開かれた皇室」の話しの中で秋篠宮の娘さんの話しが出て大正天皇が皇太子であった時の婚約者が病気だったのが発覚し、内々に慰謝料を払って破談にしたとか・・・。悪意のある人間が皇室に近づくことは過去にあったとか・・・。言いたいことはわかるが、歴史の本の中でそんな話しはいらない。

 水戸黄門は「南朝の天皇家が正統で、北朝のそれは正統ではない」と言った。その真意は、今の天皇家は北朝だから正統ではない。徳川と朝廷が戦った場合を想定しての発言ともとれる。
 その考えが水戸家の子孫にまでなると尊王攘夷となっていった。光圀の真意は子孫によって曲解されたのかもしれない。

 このように切り口がおもしろい。
 歴史の教科書では触れられていない真実があり、それが面白い。
 楽しい読書ができた。

2020 7/25
平成2年 冊目
*****



空白の日本史 (扶桑社新書)
本郷 和人
扶桑社
2019-12-27


キューバ危機は、本当にやばかった。本書を読むとケネディの印象が激変する。


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本書は、語られなかった歴史。つまり、裏歴史の真実である。
副題は「人類史上もっとも危険な瞬間」
メインは、キューバ危機のことである

私の「キューバ危機」の知識は高校の授業の程度である。
悪の軍団キューバのカストロと極悪なソビエトのフルシチョフが手を組んで
アメリカを核で攻撃しようとしていたのを
正義の味方のケネディ大統領が世界を救ったという・・・
アメリカ人が信じている一方的な歴史的な事実である。

ケネディの父親が、ウォール街の投資家で株と不動産で設けた富豪であることは有名だ。
そんな父親の口癖は「状況が困難になれば屈強な者が道を開く」だった。
つまり、ケネディ父は、息子にマッチョなスピリットを求めていたのだ。
ここ大切です。

そんなお坊ちゃまのケネディは、太平洋戦争に従軍し英雄的な行為を行い海軍海兵隊勲章を授与された。魂のマッチョぶり。勇気を見せたのだ。

そんな彼は議員になったが、最初は大人しい男だった。
物足りないと言ってもいい。
だが、急にロケットの数がソ連に比べて米国は少ないという危機感を言い始めた。
現実は、そうではないが、そう国民を煽ることで発言力を上げていったのだ。
太平洋戦争が終わり、アメリカの西側とソビエトの東側の諸国が対立する冷戦の時代である。
双方陣営で核ミサイルの建設ラッシュをしていたのだった。

ケネディと言うとリベラルというイメージが強い。
だが、ニクソンとのテレビ討論会。二人の大統領候補がテレビを通して激論する。この議論において、当時過激派のタカ派と思われていたニクソンを、さらに上まわるタカ派ぶりで蹴散らしたのである。
これはびっくりなのである。
ケネディの印象が180度くらい変わる衝撃の事実だ。
まさしく裏歴史ではないか。
いや、黒歴史である。
ケネディはリベラルの良識派なんて・・・
まったくの嘘なのである。

出鱈目に近い軍国主義的な主張で、僅差で大統領になったケネディなのである。

キューバ侵攻の話しも興味深い。
当然、CIA主導だからバックには米国がいるが、表向き無関係として軍を派遣させる。
しかし、カストロは事前に情報を知っていて軍をそちらに集結させていた。
つまり、待ち伏せされたのだ。
CIAは、この状況を知りケネディに訴えた。「援軍を出してください」
しかし、ケネディは「出さない。米国は関与していない」と味方を裏切るのだった。

このようにしてコチノス侵攻は大失敗し、米国は世界の笑いものになる。
CIAが関与してないなんて誰も信用しなかったのだ。
亡命軍は1000人以上の捕虜を出して敗北した。
怒り狂ったケネディは、CIAの幹部たちのクビ切りをした。
なんとなく、トランプと同類の臭いがする。
金持ちでマッチョ・・・、なるほど。

つまり、この騒動、米国のCIAが仕掛けたのである。
GOを出したのは大統領のケネディだ。

この後、ヨーロッパのドイツに飛び火して、ソ連は東ベルリンに壁を作って緊張状態となる。
ベルリンの壁である。

次に、ソ連はキューバにミサイルを運び込んだ。
射程距離内にはアメリカの都市がある。
つまり、核ミサイルを喉元に突き付けられたことになる。

フルシチョフの求めは、トルコにあるミサイルの撤廃とキューバにアメリカが攻めこまないこと。
アメリカは、こそこそとトルコに核ミサイルを勝手に配備していたのだ。
そりゃソ連も怒る。
ケネディは、フルシチョフにマッチョな態度で臨む。
フルシチョフも傲慢に態度を硬化させる。
大国と大国の意地である。

核戦争は不可避とされていた。

米国では核シェルターの必要性がとかれるようになり右往左往する。
家族をできるだけ遠くに逃がしたりする。
そこに危機はあり、もう避けられないと思われていたのだ。

世界は消滅していたのかもしれない。
人類史上もっとも危険な瞬間がそこにあった。

キューバ危機が回避されたのは歴史が証明しているので言うまでもない。
果たして、これはケネディが世界を救ったことになるだろうか?

私は、本書を読んでいてケネディもフルシチョフも頑固なマッチョのプライドの塊に思えた。
もう少しで世界核戦争になるところだったのだ。
そんなことになっていたら、どれだけの人が死んでいたのかわからない。
あほだと思った。

歴史の教科書では語られない。
そんな裏歴史がある。
真実から見えてくるのは、人間の愚かさだ。
マッチョな公約で大統領になったから、ケネディはドツボにはまった。
他のことで、いくらリベラルで良識的な政策をやっても
一番大切なところで、こんなことをやるのはダメ人間だ。

大統領が一番大切にすべきなのは、人民の生命なのである。

最後に、ワシントンの残した珍言(黒歴史)を紹介しておく

インディアンとオオカミは姿かたちは違っても、両方とも肉食獣である。
初代大統領ジョージ・ワシントン
歴史の教科書に書かれてある事実は、ある一側面に過ぎないということが、本書を読めばわかる。
良い本であった。

2020 5/5
令和2年71冊目
****


3人類史上もっとも危険な瞬間 (語られなかったアメリカ史)
オリバー・ストーン&ピーター・カズニック
あすなろ書房
2020-03-25



信長の発想は、同時代の戦国大名と比べても別次元のものであった。経済で歴史を見るとおもしろい。



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歴史を経済の視線で見つめるのは面白い。
ただ、専門家がすでに提議している話しが前半あって少し残念な気もする。
目から鱗の仮説が最後に飛び出して、おおなるほど・・・、と納得してしまった。
信長の視線で歴史を見ると、どれだか彼が時代の先を行っていたのかが理解できる。
それを気づかせてくれる良書でした。

信長というと桶狭間であるが、何故、10倍の今川勢を倒せたのか?。
本書でも、それに触れている。目新しい話しではない。織田家は津島という良港をおさえていたので経済的に豊かで、他の大名と違い兵農分離が早くから進んでいて常備軍があったためである。
本書では、機動力を理由としている。
それは織田が経済的に豊かであったからできたことだった。

同じ理由で、足利義昭を京都に入城させた時に、褒美として副将軍だとか管領の地位を出そうと言ったのに、堺などの主要都市の統治の権利を取得したのも、そのためである。

信長が他の大名と違い。軍事力=金 という発想を持っていたのは、たくさんの人が主張しているので、本書の主張は正しいし、私も賛同する。
楽市楽座にしても、関所の撤廃、道路交通網の整備もすべて経済のためである。

信長と他の大名の違いを著者は、天下を取る意思が信長にはあったが、毛利や上杉や武田。今川にもなかったと主張しているが、さて、どうなのでしょう?。

本書を読んではじめて知った知識もいくつかあった。
武田や上杉、毛利などの主な大名はメインの城を固定しているが、信長は頻繁にお引越しをしている。
この理由として、兵農分離が確立されていないことを理由にあげていた。つまり、武田などでは、武将や兵を動員する時、各地から動員するので城を最前線に置く必要はないが、信長の兵は常備軍が核なので、容易に支配地を移動させられる。それ故に、前線基地は戦場の近くになる。

毛利や上杉の城は、辺鄙なところにあった。防御を重視していたので山の上とかだが、信長の城は交通の要所に置き、経済的にも軍事的にも拠点になる場所にしていた。つまり、経済を重視していた。

安土城があった近江は経済の中心地であった。その安土城を町人にも見学させていたというのにはびっくりした。民衆の支持を得ようとしていたのである。確かに、それは大切なことだ。

桶狭間の合戦の話しの中にもおもしろい情報があった。当時の知多半島は常滑焼が有名で日本でも有数の工業地帯であり、今川は天下統一のためではなく経済的な問題で織田に戦争をふっかけたという話しもおもしろかった。

信長の通貨政策も面白い。それまでは輸入銅貨が中心だったが、信長が銀貨、金貨という高額な貨幣を導入したことで国内貿易が盛んになったという話しや、明確に交換比率を示したことで貨幣改革が行われた。そういうことをせず、ただ、金貨を作った武田信玄の金貨は流通しなかったという話しはおもしろい。通貨は信用が第一である。信長の本気度が成功のカギだった。

桝の統一は豊臣秀吉の仕事と思っていたら信長の業績で、税を徴収する人間が2つの異なる桝を使い中抜きをしていたのを辞めさせるためという話しや、室町時代は荘園と守護の二重税だったのが1つに統一され、税率は3割と安かったとか・・・。それなら現在よりも安いのかもしれないですね。日本の高額納税者は5割以上を税として徴取されています。
戦国時代は農民は年貢を銭で払っていたが、それだと損になるから直接米で払う石高制にしたのも信長だそうです。
信長の政策は町人にも農民にも優しいものだったようです。

信長というと延暦寺の焼き討ちの残酷さが有名だが、当時の寺は膨大な荘園を有し武装し、金貸しをしていた。今でいう違法高利貸しで、利息は48%から70%というのもあったとか、だから貴族からも武士からも憎まれていた。


鎌倉時代の歌人藤原定家の歌がおもしろい。

妻子帯び、出挙して富裕なるもの、悪事を張行し山門(比叡山)に充満す

比叡山の僧は妻を持ち、子をつくり、高利貸で巨額の富を蓄えるなど悪事を働くモノが充満している・・・という意味です。
だから、信長は彼らを悪と見たのですね。

さて、信長は何故、明智光秀に殺されたのか?
この独自の仮説がおもしろい。
この部分だけでも読む価値ありです。

信長は幕府の官職には興味がなかったが、朝廷の官職には興味があったのだそうです。
最終的には、信長は太政大臣だったのだとか。
信長は、どうやら朝廷の権威を利用して昔のような王政復古の政治体制を狙っていたというのです。
国の土地や民は元々は国のものだったのですが(公地公民制)、私有地を認めたので荘園ができたりして
後には、大名たちの領地となり、民も土地も彼らの支配下になった。つまり、国の物から有力者の物に変わった。
それを朝廷が、また、掌握しようというのです。つまり、信長は時間の逆回転を考えていたという仮説です。

この時代、家来が手柄を立てると領地を与えた。
室町幕府は、恩賞の与え過ぎで自分の直轄地よりも配下の大名の方が支配地が多くなり力を失った。
つまり、この制度が続く限り、いつ部下は裏切り独立するのかわからない。武将たちは独立経営者だからです。
だから、信長は褒美として土地を与えるのではなくて、貸し与えるとした。
故に、平気で国替えもしたし無能な人間からは取り上げて放逐した。

つまり、信長の領土はすべて信長の土地なのである。
家臣に一時的に貸し与えているだけなのだ。土地も人も。
つまり、それは昔の日本の形。朝廷が土地も人民も直接に支配していた形なのだ。
公地公民制の公が、信長なのである。

故に、明智光秀は謀反を起こした。
このビジョンが理解できなかったからだ。信長だけがすべてを得て、俺たちは使い捨てのライターなのか。いらなくなったら捨てられるのかと思ったのだと思う。
この気持ち良くわかる。
この仮説が正しいなら、信長の考えは簡単には武将たちに受け入れられなかったと思う。
公地公民制なんて発想は、彼らには逆立ちしても思いつかなかった。
信長は中央集権体制を確立し強い日本を目指していたのだ。土地も人々も個人ではなく国家が所有する強固な日本という国を考えていた。

だから、明智は本能寺の変で信長を殺した。
しかし、十分に兵が集まらなかったのは、兵は元々、信長の物という発想が基本にあり、明智の兵はそんなに多くはなく、付き従っていた与力や兵は借り物だったから、いざという時、彼らは明智のためには働いてはくれなかったのだ。
つまり、その時点で信長の思想は家臣団の中に浸透していたということだ。
明智は地方司令官にすぎず、軍団は彼が信長に借りた兵だという認識があったため、明智を支持する兵はあまり集まらなかったのだ。

この信長の大いなる野望。
土地も人民もすべて公のモノとし、そんな朝廷(国)を傀儡とし陰で信長が操るという考え方。
たぶん、いざ、その時になったら信長は自分が天皇になろうとしていたのかもと思ってしまうのです。
この仮説はとてもおもしろい。
すごくおもしろい。

2020 5/4
令和2年70冊目
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信長の経済戦略 国盗りも天下統一もカネ次第
大村大次郎
秀和システム
2019-09-10




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