世界を動かすのは、いつも純粋な過激派でした。じゃ、過激派とは何?。



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本書のタイトルは、ラディカルズ
日本語に訳すると、過激な人たち

8つの章に別れていて、著者が過激だと思った集団や個人に同行取材などをして
過激派の正体に迫った本である。

と言っても、きちんと話しを聞くとまともな人たちであり
考え方もしっかりしていた。

歴史が証明している事実なのだが、歴史を動かしたのは、常に過激派だった。

オスカー・ワイルドの言葉を紹介する。

不服従と反逆によって、世の中は進歩してきた。

キング牧師しかり、N・マンデラしかり、ガンジー、キリスト・・・、フランス革命を成し遂げた民衆しかりである

オーバートンの窓という概念がある。

特定の時代のおいて、国民の大部分が尊重すべき常識的なものとして受容する考え方の範囲のことだ。

本書に出てくる過激派たちは、その概念をずらそうとしている、変えたいと思っている人たちのことである。

彼らは、現代社会における何かを絶対的に間違っていると思っていて、自分たちは改める方法を知っていると思っている。

今、我々は大きな変化の時代を生きている

・テクノロジー革命
・気候変動
・民主主義というシステムに対する不信

この変動の時代に、過激派を観察することは大切なのことだ。

具体的にみてみることにする。

・テクノロジーによって永遠の生命を獲得したいと信じている集団。

最初に登場するのはテクノロジーによって、永遠生命を希求している人々である。
地球環境の大きな変化に有機物である人間の肉体では生存は厳しい
だから、無機物になるべき
肉体のロボット化を提唱する考えはよく耳にする
このゾルタンという人物もその系統に所属する考え方の持ち主だ。

人間の在り方じたいを、化学テクノロジーを駆使し変えていこうとしている。
彼らの主張は、科学技術を使った寿命延長への政府による支援。ロボットとサイボーグの権利などである。

彼は、選挙の味方を得るためにグラインダーと呼ばれる人たちに支持の要請にでかけた。
この人たちは、体内にICチップを入れ込んで生活している人たちである。

その19歳の青年は、自分の車まで彼を連れて行き、キーもささずに手を使ってロックを解除し、さらにエンジンまでかけてみせた。

このような人たちの考え方を非難している人もいる。
本書で紹介されているフランシス・フクヤマ氏は、化学を強引に使って、一部の人間が他の人たちよりも、ずっと長生きしたり、記憶力や体力を劇的に増強させたりしたら、いったい、どうなるのか?と懸念している。

だが、すでに世界はそういう方向に向かっているようである。


・ヨーロッパの右翼団体

中東からの移民によって不安を感じている人たちが、彼らを排除しようとデモをしている。
彼らは、普通の低学歴な市民たちで暴力的ではない。ただ、純粋にイスラムの過激派を恐れているのだ。
しかし、問題は過激派は、その中の数パーセントで、他の人たちは善良であるという視点がないことだ。

この活動の本質を著者はこう示している。

そこにあるのは、自分がより大きな存在の一部となることで感じられる高揚感だ。

仲間意識とか、存在意義とか・・・、ようするに楽しい。
だから、やっているということである。
誰かを差別したり排除する人は、この程度の動機なのだろう。

・LSD(合成麻薬)を医療などに利用すべきだという集団はおもしろい。

麻薬として広がったが、本来、この薬にはうつ病の症状を改善させる効果があるのだ。
もちろん、医師の指導の元に使用したらということです。

これを使用すると、自我というか自意識がなくなる。
人が心の病気になるのは、この自意識からであり、他人が自分をどう見ているか?
という他者評価や、自分に対して他者が承認してくれているのかなどの承認欲求と関係してくるが
自我というか自意識が消えて、すべてが1つ。他人との境界線が消えることにより・・・。

早く、医療用として使えればいいのにと、私も思います。


・イタリアのコメディアンが政党を運営している5つ星運動の話しもおもしろい。

ポピュリズムの話しです。日本でも、有名人が選挙に当選するという現象があります。
中身のない話しを言っていても、知名度があったりするとね・・・。
ネット社会は速さを基本にしているが、議会制民主主義の根本はじっくり皆で話しあって決めるだから、過激で分かりやすい発言をする有名人が支持されやすいのかもしれません。

人は怒りの言葉に飛びつく。ジャーナリストはトランプとその強烈な暴言にひそかにはまっていた。


トランプは、典型的なSNSを利用した有名人のポピュリズムですね。
過激な発言を繰り返しますが、その半分も実際にはやらないですから、口だけなんです。
彼の発言を調べると70%がいい加減だったそうです。

・環境保護団体は、どんどん過激になっていくだろうと著者は予言している。


このまま化石燃料を使い続けたら、3フィートの海面上昇。それから動物の大量絶滅が起こると言われている。その中に、もちろん、人間も含まれています。
とても、大切なことなのに、動員人数は右翼の人たちよりも少ない
実際に、ある炭鉱でデモを行う。1日の作業停止が達成できて成功したと喜んでいるのだが、多額の資金と人数を動員してやっと1日の休業。それも数日のうちに労働時間を増やすということで、彼らはその量を達成。そういうジレンマが、そこにはあった。

何で運動が盛り上がらないのかは、理由が明白である。それは気候変動がもたらす結果が日々の生活に直接影響するまでは、まだ数年あるので、私たちのほとんどは直接行動する危険性と負担を引き受けようという気にはならないことである。

やっていることは炭鉱の不法占拠なので逮捕される。金もかかる。
なのに、成功しても意味はない。
これはとても大切な活動だ。しかし、遠い未来の話しなのでリアリティがわかないし
自分の国で削減しても他の国では、どうにもならないという現実がある。

気候変動の問題解決方法は、資本主義を変えるしかない。
資本主義は、化石燃料の使用がなくてはなりたたないからだ。
つまり、資本主義の副産物が気候変動なのであるという。

活動家の女性たちが歌っているという歌が興味深い。

わたしたちの住む世界には
「再生可能なもの」があるはず
太陽光をもってこい
潮力をもってこい
愛をもってこい!

・国民国家という仕組みを潰そうと考える人を紹介した最終章がおもしろかった。


主権国家から正式に領有権を主張されていない土地は世界にたった一か所しかない。
名前をゴル二ャ・シガという。
クロアチアとセルビアの間の沼地だ。

無主の土地に、最初に主権を主張したものに所有が認められるとされている。

ヴィ―トという男が、そこにリベランド自由共和国という国を建国すると主張した。
世界初の急進的なリバタリアンの国だ。税金は自主的に納入、政府はほぼ存在せず、ドラッグと銃は合法。何を言おうとやろうと、ほとんど制限がないという自由の国だ。

もちろん、隣国どころか、どこの国も認めてはくれない。
でも、彼らは「自由」を求めて国を作ることにした。
世界中から、たくさんの人が集まった。


1750年には、自分を「フランス人」であると考える人はほとんどいなかったが、1900年までには誰もがそう考えるようになった。帝国主義の拡大にともない、この国民国家というモデルは世界中に広まり・・・二回の大戦の間、そして、大戦後に手続きは正式なものとなった。


その国民国家というシステムが、人を不幸にしているとリバタリアンたちは考えている。

大統領のヴィ―トはこう考えた。

リベルランドは自発的な国である。つまり、誰でも臨めば国民らなれるし、出ていくことも可能なのだ。
ここは、世界最初の、何も強制されない国家である。他人を肉体的に傷つけない限り、何をやっても構わない。
税金は払いたいだけ払えばいい。払った分だけサービスを受け取る仕組みだ。学校、病院、年金、道路、下水道、ゴミ収集などは、人々がそれが必要だと判断して金を出せば、民間企業によって提供される。


ネット上に国を作ったスザンヌという人がいる。
彼女は、ビットコインのシステムを転用し国を経営しようというのである。

ビットコインは通貨供給の支配権を国家の手からもぎとるものだ。

彼女は、ビットコインが情報を保存する方法に着目した。このシステムは、ユーザー間の取引きのすべての情報を保存する。ブロックチェーンという技術だ。時系列にそって、改ざんされないデーターベースとなる。

これを使えば、市民たちが出会ったり、連絡をとりあったり、契約を結んだり、紛争を解決したり、社会保障制度を提供したり、監視されたり管理されることなく取引することが可能となるはずだと言っている。

一番成功したのは公証サービスだ。このシステムによれば、書類を登録しビットネイションのブロックチェーンにその記録をアップロードすると、他人はチェックできるが、改ざんすることはできない。これはフリーランス契約、結婚、出生証明書、有ゴン、地権、ローンを登録するのにつかわれている。

民主主義というのは、自分が納得できない規則を無理やり同意させられることよ。そして、欲しくもないもののために税金を払わないといけない。衆愚政治もいいころだわ!


国民国家の存在自体が、もはや人の自由を危険にさらしたり制限するものになっている。
そんなものはいらない。
それが彼らの主張だ。
無能で複雑で誰かが国民の富を収奪するシステムである国民国家というシステムは
ネット社会が浸透していくと消えてなくなるのかもしれない。

印象に残った過激派たちを、少し書き出してみたが、とても発想がおもしろい。
本書は、その団体に入りこみ、時にはドラッグを体験し、違法な炭鉱の封鎖にも参加し、イスラム系の人たちを排除する集会にも参加し、フリーセックスのコミュニティでの侵入ルポも敢行している。

その記述はリアルで、おもしろく興味深い。
とても面白く色々な視点を与えてくれる良書であった。
ぜひ、みなさんにも読んでいただきたい。

2020   6/10
令和2年99冊目
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ラディカルズ 世界を塗り替える<過激な人たち>
ジェイミー・バートレット
双葉社
2019-06-21